人生にリセットボタンはないなんて言うけれど、それは嘘だと、私は、しおりはそう思う。
 ……だ、だって、いつでも死ねるでしょ?
 だから『死』とは、人生のリセットボタンで、押そうと思えば簡単に押してしまえるもの。死んでやり直しが出来ないって、誰が決めたのだろうか? 出来るかどうかなんて、実際に死んでみなければわからない。なら、ワンチャン死んでリセットするのも、普通にしおり的にはありだ。
 ……だ、だったら、しおりの『生』って、私の価値って、何なの?
 簡単に死ねる自分の人生に、しおりは価値を見いだせない。しおり自身が自分を認められないのなら、私の価値は、どうすれば確かめられるのだろう?
 ……あ、『いいね』ついた!
 石竹商への登校中、しおりは自分のスマホの通知を見て、ほくそ笑んだ。スマホの画面にはSNSのアプリが立ち上がっており、自分の投稿した画像が表示されている。
 先程投稿した画像は、この前カフェでコーヒーをテイクアウトした時の写真だ。カップに入っているコーヒーにはこれでもかとホイップが入っており、さらに溢れんばかりのストロベリーソースがかかっている。写真にはそのカップで口元を隠し、自画撮りをしたしおりが写っていた。着ている服は、胸元がかなり開いている。
 ……こ、これ、加工大変だったんですよね!
 美肌加工に、瞳は一回りほど大きく修正した。胸自体は大きくさせていないが、陰影をつけて谷間をはっきり見せる工夫もしている。
 今もその写真に対して『いいね』が押され、コメント欄にも『今日も可愛い』『エロい』『何食べたらそんなに胸大きくなるの?』といった発言で埋められ、フォロワーも増えていく。
 ……や、やっぱり、こういう路線の方が、注目されやすいですね!
 以前は単にお菓子の写真や、道端で見つけた猫の写真をアップしていた。でも、それだけではどうしても『いいね』の数が、しおりを認めてくれる人の数が、限られてくる。
 それはつまり、しおりの価値の限界だ。
 ……ど、どれぐらいなんでしょうね? 私の、しおりの価値は。一体、どれぐらいの人が、しおりを認めてくれるのかな?
 わからない。だから、試すしかない。自分で自分の価値がわからないなら、他の人に認めてもらうしかないのだ。
 どんどん増えていく『いいね』とコメントにニヤつきながら、しおりは校門を通って、昇降口に入る。すると――
「おはよう、しおり」
「し、静花ちゃん!」
 下駄箱に丁度自分の靴を仕舞う途中だった静花ちゃんに声をかけられ、しおりは思わずスマホを落としそうになる。そんな私を見て、静花ちゃんがくすりと笑った。艶のあるボブカットがサラサラと揺れ、しおりのスマホを握る手に、思わず力が入る。
「どうしたの? しおり。そんなに慌てて」
「だ、だって――」
「静花! 先行くよー?」
 私の声を遮り、静花ちゃんを呼ぶ声が聞こえてくる。その声の方向には三人の女子生徒がおり、同性のしおりから見ても、綺麗な子たちばかりだった。
 ありていな言い方をすると、スクールカーストの上位組。その中の一人に、静花ちゃんが含まれている。
 静花ちゃんは自分を呼んだ彼女たちに振り向いて、笑顔を向けた。
「待ってよ、すぐ行くから! それじゃあしおり、また後でね」
 そう言い残して、静花ちゃんはこの場から去っていく。その背中を、そのグループを、私は羨望と、少しだけ嫉妬の混じった目で見つめていた。
 ……い、いいもんいいもん! しおりには、これがあるもんっ!
 手の中にある無機質な機械(スマホ)の存在を思い出し、しおりは大きく頷いた。リアルで私を認めてくれる人数は、限られている。現実で知り合いになれる人なんて、世界中の何割にも満たないだろう。
 だからより多くの人に自分を認めてもらうために、しおりはSNSを使うことにしたのだ。
 ……だ、だからしおりは、リアルよりもSNSが大切なんですっ!
 スクールカースト的に言えば、私は上位の下の下。悪くもなければ良くもない、中間層。物語的に言えば、主役を引き立てる脇役か、それ以下のモブだ。
 でもしおりは、それでいい。リアルで認められなくても、この『いいね』とコメント、そしてフォロワーの数が、私の存在を認めてくれる証なのだから。
 私は気を取り直し、下駄箱で靴を履き替える。
 ……そ、それにこれからは、もっと『いいね』がもらえそうですしね!
 思い出すのは、一匹の犬。今日から世話をすることになるウェルシュ・コーギーの、トートの事だ。
 ……あ、あれはバズりますよっ!
 動物の写真をアップしていたのでわかるが、そうした写真をSNSで探しているクラスタは一定数いる。犬の写真をアップすれば、犬のクラスタが反応してくれるはずだ。
 犬と一緒に露出を上げた格好で写真を撮れば、そういう格好をしたしおりを求めている人たちの『いいね』だけでなく、犬クラスタの『いいね』もプラスして得られることになる。
 ……そ、それにあの犬は病気ですから! 話題性も十分ですっ!
 犬を同情するコメントと、その犬の世話をするしおりを称賛するコメントが、かなりの数つくに違いない。見てくれる人が増えれば、フォロワーの数の増加も期待できる。
 そして、今日のトートの世話は、私と静花ちゃんの二人の番だった。
 トートを怖がっていた静花ちゃんの姿を思い出し、しおりの口が、暗い笑みをかたどる。その事に気づき、私は顔を振った。
 ……ち、違います違います! これは、今からつくはずの『いいね』とコメントが楽しみなだけですっ!
 自分自身にそう言い聞かせて、しおりは自分の教室へと歩き出した。いずれにせよ、放課後が楽しみで仕方がない。
 
「ねぇ、しおり。あんた、スカートそんなに短かったっけ?」
「え、普通、普通だよ!」
 静花ちゃんと一緒にやってきたのは、古びた一軒家だった。築二十年以上はあろうかという木造のそれは、近所の子供達からは幽霊屋敷と呼ばれていて敬遠されていると聞いても不思議ではない佇まいをしている。人通りも少ないので、他にも家が並んでいなければ、しおりだって進んで近づきたいと思わない場所だった。
 私たちの目的地は、その裏側にある小さな庭。木の囲いが並ぶその裏手に回り、小嶋さんからもらった鍵、六人分用意されていたもので、扉を開ける。
 中に入るしおりの腕に、怯えたような静花ちゃんの腕が絡まった。
「ちょ、ちょっと待って、しおり」
「だ、大丈夫だよ静花ちゃん。ただの犬なんだから!」
「でも……」
「ほ、ほら、早くっ!」
 しおりは満面の笑みを浮かべて、静花ちゃんの腕を引き、扉をくぐった。
 扉の向こうに現れた庭は、家と不釣り合いに手入れが行き届いており、雑草も綺麗に抜かれている。そこにはスチール製の物置と、手洗いや水撒き用のための水栓柱が建っていた。そしてそこに、小さな家が建っている。犬小屋だ。
 その中から、一匹の犬が、トートが飛び出してきた。扉を開けた音に反応して、出てきたのだろう。
「わんっ!」
「ひっ!」
 後ろ足を引きずったトートに吠えられ、静花ちゃんは涙目になってしおりの後ろに隠れる。笑いながら私は、今くぐってきた扉を閉めた。
「さ、トート。こっちにおいで!」
「わんっ!」
「わ、私、ご飯の用意するから!」
 トートを撫で回すしおりから離れて、静花ちゃんは物置の方へと走り出した。静花ちゃんの言った通り、庭の物置の中にはこの犬の餌や、散歩に必要な道具などが入っていると聞いている。
 ……こ、こんなに可愛いのに、静花ちゃんは何がそんなに怖いんですかね?
『死』のリセットボタンは、誰だって持っているし、すぐに押せるものだ。それを過剰に恐れたとしても、その事実には変わりがない。
 スマホで犬の写真を何枚も取りながら、物置のホコリで咳き込む静花ちゃんを、暗い愉悦を持って一瞥する。そんな苦労をしても、誰からも認められない。『いいね』もつかなければ、コメントもフォロワーも増えない。
 ……つ、次はメインの写真撮影の時間ですよっ!
 しおりはこの家に来る前、最寄りの駅のトイレで短くしたスカートを更に捲くりあげて、ギリギリ下着が見えない位置に調整する。
 ……ど、どれぐらい『いいね』が増えるかな?
 きっと、過去最多は軽く超えていくに違いない。そう考えると自然に口元はどんどん緩んでくるし、この犬も愛おしくて仕方がない。ネットで繋がった世界中の人に認めてもらえるためなら、病気の犬に会いに行くのだって、全く苦痛ではなかった。
 犬と一緒に写真を撮る前に、何枚か自画撮りをして、私は口元を隠しながら太ももを大胆に出したベストなアングルを探しだした。やがて満足の行く角度をしおりは見つけ出すと、右手にスマホを持ち、左手で犬を抱えようと手をのばす。のだが――
「こ、こら! 暴れないのっ!」
「わん! わんっ!」
 脇の下に手を伸ばして抱えようとした途端、今までおとなしくしていた犬が急に暴れ始めた。じゃれているつもりなのか知らないが、写真を撮る時には少し大人しくしていて欲しい。ウザい。
「ちょ、ちょっと! 動かないでっ!」
「わん! わんっ!」
「い、いいかんげんにしてよっ!」
「わん! わんっ!」
 悪戦苦闘を繰り広げながら、何枚か写真を撮る。でもどれもベストショットとはいい難く、撮った写真の中にはしおりの顔がもろに写ってしまっているもの、下着が丸見えのものまであった。
 ……さ、流石にこれは使えないよっ!
 怒りでスマホを握る手に力がこもる。でも、これを乗り越えた先の『いいね』が待っている以上、しおりには頑張らないという選択肢はありえない。
 何度目かの失敗の後、ようやく及第点が与えられそうな写真が撮れる。口元は犬で隠れていて、下着が隠れている状態で生足もそこそこ見えていた。犬には両手を上げずにもっとカメラ目線の写真を撮りたかったが、もうこれが限界だろう。
「何してんの? しおり」
「え、写真撮ってるだけだよ? トートのお世話をしたり、気づいた内容は他の四人にも共有することになってたでしょ? だからトートの写真、送るんだっ!」
 犬の餌を持ってきた静花ちゃんに向かって、私は笑いながらそう返す。その隙にトートは体をよじり、しおりの膝の上から地面の方へと転がり落ちた。私は必要な写真は取り終えているので、それを追おうともしない。
「し、静花ちゃんの方こそ、餌は見つかったの?」
「うん。ここに――」
「わんっ!」
「ひっ!」
 静花ちゃんの持つフードボールに気づいたのか、犬が後ろ足を引きずりながら静花ちゃんに向かって走り始めた。
 静花ちゃんは悲鳴を上げながらも、一瞬逡巡した後一歩だけ前に出て、手にしたフードボールを地面に置く。一方犬はボールに頭から顔を突っ込んで、ガシガシとドッグフードを食べ始めた。こうしてみると、トートが病気だなんてあまり感じられない。
 餌を食べる犬の写真を撮りつつ、自画撮りした写真以外をメッセージアプリのトークルームに投稿する。投稿先は、トートの世話をすることになったしおりを含む六人のトークルームだ。もちろん、SNSにアップ予定の写真まで投稿する気はない。
 SNSに投稿するために自画撮りでボツにした写真を削除し、投稿用の写真を加工しようとした所で静花ちゃんがしおりのそばまでやって来る。
「しおり、ちょっと気をつけたほうがいいよ」
 何のことかわからず、しおりは首をかしげる。
「え、写真撮ってただけなのに?」
「違う。さっきの、トートの抱き方」
 何を言われているのかわからないしおりに向かって、静花ちゃんは犬を怯えた様子で横目に見ながら口を開く。
「さっきしおり、トートを脇から抱えて持ってたでしょ? あれ、関節に負荷がかかるから止めたほうがいいんだって」
「……ふ、ふーん」
 冷めたように頷くしおりを一瞥もせず、静花ちゃんは相変わらず餌を貪る犬に目を向けていた。
「後、片手で持つのも。片手だと不安定だし、トートが怪我しちゃうかもしれないから」
「こ、怖いのに、詳しいんだね」
「……怖いからだよ」
「え、ど、どういう事?」
「『死』が、怖いから。だから、それに近づかない方法を調べただけ」
 静花ちゃんの言っていることがよくわからず、しおりは口を少しだけ尖らせた。怖いのに恐れている対象を調べるなんて、意味がわからない。
 ……そ、そんな事したって、誰も認めてくれないじゃん。
「ほら、後は犬小屋の掃除と、あまり行きたくないけど、散歩も行かないと」
 そう言われて、しおりは嫌々静花ちゃんと一緒に物置の方へと向かった。そこから箒にバケツ、雑巾を取り出していく。
 静花ちゃんは箒を持って先に犬小屋へ向かい、しおりはバケツと雑巾を持って水栓柱へと向かう。
 ……も、もう今日はSNSにアップする写真は十分撮れたから、ここにいる必要なんてないんだけどなぁ。
 そう思うものの、多数決で犬の世話をすることになった以上、途中で抜け出すわけにはいかない。
 ……そ、それにここで抜けたら、もう犬との写真が撮れなくなるかもしれないからね!
『いいね』が稼げる機会を、皆に認めてもらえる機会を、しおりは逃すわけにはいかなかった。
 バケツを半分ほど水で満たして犬小屋へ向かうと、犬小屋を挟んで、犬と静花ちゃんが睨み合っている。
「し、しおり! 助けてっ!」
「え、えーっと、どういう状況?」
「多分ご飯が足りないから催促されてるんだと思うんだけど、でも食べ過ぎは太って健康に良くないし、『死』に近づくから私は――」
「わんっ!」
「ひっ!」
「は、はいはーい! トートはあまり静花ちゃんをいじめちゃダメだよっ!」
 バケツを地面に置いて、しおりは犬を抱き上げる。静花ちゃんに注意された事を思い出し、今度は両手で包むように抱き上げた。
 すると、今度は犬は暴れることなくしおりの腕の中にすっぽりと収まる。つぶらな瞳が私の方へと向いて、耳がぴくぴくと動いていた。
「し、静花ちゃん! 写真! 写真撮って、今すぐ!」
「え、そんな急に言われても……」
「は、早く早く!」
 静花ちゃんを急かして、スマホで写真を撮ってもらう。
「写真、トークルームに後で送っておくから」
「あ、ありがとう!」
「それからしおり、そのままトートを抱えてて。私、掃除しちゃうから」
「う、うん!」
 しおりの腕の中にいる温かくて柔らかいそれは、顔をきょろきょろ動かしながら、時折前足で私の腕をぺたぺたと触ってくる。桃色の舌を出したそいつの口は嬉しそうな三日月型で、こちらのことがわかるのか、少しだけ顔を胸に埋めてきた。
「え、えへへへへっ」
「あれ、しおり。これ、何だと思う?」
「な、な、何? 何かな?」
 突然名前を呼ばれ、しおりは狼狽しながら静花ちゃんに返事をする。
 見れば静花ちゃんが、犬小屋の中からいくつかものを取り出していた。それはボロボロになったトラのぬいぐるみであったり、運動会の綱引きで使うような縄の両先端を結んで骨のような形にしたものであったりと、様々だ。
「わんっ!」
「ひっ!」
 静花ちゃんが犬小屋から出してきたそれらに、腕の中の犬が反応してもがき始める。
「こ、こら! 急にどうしたの?」
「ひょっとしてこれ、トートのおもちゃなのかな?」
 言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。しおりがゆっくり犬を地面に下ろすと、トートはすぐさま静花ちゃんが犬小屋から出したものへ突進し、噛み付いたり足で転がしたりしていた。
「お、お気に入りのものは自分の家に溜め込んでいるのかな? この子」
「……そうかもね。一応、この情報も皆に知らせておこうか」
 犬が地面に降り立つと見るや、全力で物置まで避難した静花ちゃんが、こちらを伺うように小さくつぶやいた。
「しおり、ごめん! 後、お願いしていい?」
「も、もう、しょうがないなぁ」
 そう言ってしおりは、静花ちゃんが放り投げた箒を手に取り犬小屋に向かっていく。中を見るとほとんど静花ちゃんが掃除を終えていたみたいだったので、私は雑巾をバケツの水で浸して犬小屋の屋根をふいていった。
 途中、おもちゃに飽きた犬が静花ちゃんに向かっていくのを止めて掃除の手を交代したり、散歩に連れて行ったりして、今日のしおりたちの仕事は終了した。
 いくら夏の日が沈むのが遅いとは言え、辺りはもう薄暗くなっている。
「そ、それじゃあ、またねっ!」
「わんっ!」
 犬に見送られて、しおりたちは庭の扉から出ていく。私が施錠をしたタイミングで、静花ちゃんが安堵のため息をついた。
「……疲れたぁ。やっと終わったよ」
「ま、まぁ、だいぶ元気だったね!」
「それはいいんだけど、安心したら私、ちょっとお腹空いてきちゃった」
「じ、じゃあ、どこかで何か食べてく?」
「いいねいいね! 駅前にバーガー屋があったから、帰りに寄ろうっ!」
 二人で屈託なく笑い合って、しおりたちは駅前に向かって歩き始めた。こうやって純粋に静花ちゃんと笑うのは、久々だった。
 ……が、学校だと、静花ちゃんとしおりは住んでる世界が違うからなぁ。
 スクールカーストの上位の静花ちゃんは、皆から一目置かれる存在だ。脇役どころかモブのしおりは彼女に話しかけるのに、抵抗を感じていた。
 しかし、今一緒にバーガー屋の自動ドアをくぐる静花ちゃんとの距離は、小学生三年生だったあの頃に戻っている気がする。
 ……で、でも、これはあくまで犬の世話をした一環みたいなものだから!
 そう思い直すことで、自分の自惚れを私はかき消す。変な勘違いをして学校で同じ様に振る舞えば、しおりどころか静花ちゃんの立場も悪くなるかもしれない。
 しおりは、今のままでいい。学校では可もなく不可もなくの存在で、SNS上で認められれば、私はそれでいいのだから。
 ……だ、だからしおりは、リアルで必要以上のものは求めませんっ!
 静花ちゃんが注文した後、カウンターでしおりはメニューを注文する。ハンバーガーまで頼むと、家でお母さんが作ってくれている晩ごはんが入らない。どうしようかと思って静花ちゃんの方を見ると、静花ちゃんも同じ考えだったのか、トレイにはナゲット単品とドリンクが鎮座していた。
 ……ど、どうしましょう。
 少し悩んだ後、しおりはポテトを単品とコーラを注文。先に席を取っていてくれた静花ちゃんの待つ席へと向かう。
「何頼んだの? しおり」
「ぽ、ポテトにしたよ!」
「いいじゃん! 交換しよっ!」
「う、うんっ!」
 それからしおりたちは、今日初めてした犬の世話の話で盛り上がった。
「そういえば、しおりが撮って欲しいって言ってた写真、トークルームにアップしておいたよ」
「あ、ありがとうっ!」
 スマホで確認すると、そこには確かにしおりが犬を抱き上げている写真がアップされていた。でも、その写真にはバッチリ私の顔が写っていてる。
 ……こ、これは、SNSにアップ出来ませんね。
 そう思うものの、写真を撮ってくれた静花ちゃんに満面の笑みを浮かべている自分の写真を、私はすぐに保存した。