莉子を亡くし悲嘆にくれる僕に追い討ちを掛ける現実が待っていた。
「そろそろ右脚のギプスを外しましょう」
「外せるんですね」
「はい」
ギプスから解放された右脚の皮膚はふやけ筋肉も落ち頼りないものに変わり果てていた。
(仕方ないよね)
僕は右膝を曲げようと腰を浮かした。
(・・あれ?)
ところが右脚はびくともせず足首を回す事も指を動かす事も出来なかった。
「先生、脚が動きません」
母親は泣き崩れ父親は俯いた。
「蔵之介くん、よく聞いて下さい」
「はい」
「蔵之介くんは交通事故に遭った時脊髄に損傷を受けました」
「脊髄に損傷」
医師が説明するであろう内容に大凡の見当が付き僕は唇を噛んだ。
「脊髄損傷、蔵之介くんの右半身は麻痺を起こした状態です」
「治るんですよね」
「右脚は、難しいかもしれません」
「治るんですよね!」
「リハビリで出来るだけの事をしましょう」
「治るんですよね!」
「今はそうとしか言いようがありません」
医師が病室から出て行くと僕の目からポロポロと涙が零れ落ちた。何度動かそうとしても力が入るのは左半身だけで右半身は動かなかった。
「治るんだよね?」
数日後、1年A組の担任が見舞いの花束とクラスメートのメッセージが綴られた色紙を持って見舞いに来た。
「先生、みんな元気ですか」
「元気だよ、雨月くんが帰って来るのを待っているよ」
「そうですか」
その背後には全校朝礼で顔を見ただけの校長先生と父親が神妙な面持ちで立っていた。父親の口がゆっくりと開いた。
「蔵之介、退学が決まったよ」
「え、退学?」
校長先生が頭を下げた。
「雨月蔵之介くん」
「はい」
担任の顔が歪んで見えた。
「ご両親と相談した結果、通信制高校に入学してもらう事になりました」
「通信制高校」
「月に二回、スクーリング、面接に来て頂きます」
「じゃあ僕はみんなといられないんですか!」
「病院かご自宅で学んで頂く事になります」
堪えていた涙が溢れて来た。
「体育祭は!修学旅行は!文化祭は!」
校長先生は下を向いたままだった。
「卒業式は!」
通信制高校も三年間学ばなければ卒業出来ないと言った。僕はクラスメートと一緒に進級する事が出来ない。修学旅行も一緒に行く事が出来ない。例え卒業式に参加出来たとしてもみんなを見送る在校生の席に座る。
「・・・」
僕の右半身は動かない。
(もう、大学の特待生なんて無理だよね)
動かない右脚でサッカーボールを蹴る事など夢のまた夢だ。両親に当たり散らし悪態を吐いたがなんの解決にもならなかった。悔しさでベッドを何度も叩き枕を床に投げ付けた。
蔵之介 好き
蔵之介 愛してる
僕は莉子からの紙飛行機を開いては挫けそうになる気持ちを払拭した。
「そろそろ右脚のギプスを外しましょう」
「外せるんですね」
「はい」
ギプスから解放された右脚の皮膚はふやけ筋肉も落ち頼りないものに変わり果てていた。
(仕方ないよね)
僕は右膝を曲げようと腰を浮かした。
(・・あれ?)
ところが右脚はびくともせず足首を回す事も指を動かす事も出来なかった。
「先生、脚が動きません」
母親は泣き崩れ父親は俯いた。
「蔵之介くん、よく聞いて下さい」
「はい」
「蔵之介くんは交通事故に遭った時脊髄に損傷を受けました」
「脊髄に損傷」
医師が説明するであろう内容に大凡の見当が付き僕は唇を噛んだ。
「脊髄損傷、蔵之介くんの右半身は麻痺を起こした状態です」
「治るんですよね」
「右脚は、難しいかもしれません」
「治るんですよね!」
「リハビリで出来るだけの事をしましょう」
「治るんですよね!」
「今はそうとしか言いようがありません」
医師が病室から出て行くと僕の目からポロポロと涙が零れ落ちた。何度動かそうとしても力が入るのは左半身だけで右半身は動かなかった。
「治るんだよね?」
数日後、1年A組の担任が見舞いの花束とクラスメートのメッセージが綴られた色紙を持って見舞いに来た。
「先生、みんな元気ですか」
「元気だよ、雨月くんが帰って来るのを待っているよ」
「そうですか」
その背後には全校朝礼で顔を見ただけの校長先生と父親が神妙な面持ちで立っていた。父親の口がゆっくりと開いた。
「蔵之介、退学が決まったよ」
「え、退学?」
校長先生が頭を下げた。
「雨月蔵之介くん」
「はい」
担任の顔が歪んで見えた。
「ご両親と相談した結果、通信制高校に入学してもらう事になりました」
「通信制高校」
「月に二回、スクーリング、面接に来て頂きます」
「じゃあ僕はみんなといられないんですか!」
「病院かご自宅で学んで頂く事になります」
堪えていた涙が溢れて来た。
「体育祭は!修学旅行は!文化祭は!」
校長先生は下を向いたままだった。
「卒業式は!」
通信制高校も三年間学ばなければ卒業出来ないと言った。僕はクラスメートと一緒に進級する事が出来ない。修学旅行も一緒に行く事が出来ない。例え卒業式に参加出来たとしてもみんなを見送る在校生の席に座る。
「・・・」
僕の右半身は動かない。
(もう、大学の特待生なんて無理だよね)
動かない右脚でサッカーボールを蹴る事など夢のまた夢だ。両親に当たり散らし悪態を吐いたがなんの解決にもならなかった。悔しさでベッドを何度も叩き枕を床に投げ付けた。
蔵之介 好き
蔵之介 愛してる
僕は莉子からの紙飛行機を開いては挫けそうになる気持ちを払拭した。