祝言も滞りなく終え、次は瞳子の勝負⁉祝言の宴。
うろうろと落ち着きなく宴会場の外廊下を行き来する兎士郎。階下から瞳子が上がってくるのを見るなり、走り寄った。
「瞳子、広間を見たが、な、な、なんなんだ?あの様子は!!今日は、祝いの場。黄龍様以下、八龍様、それに鬼神の一族の祝言ゆえ、各界神族のみなさまがご列席なのじゃ。その祝いの席が、野っ原の様相とはどういうことぢゃ!!まったく、魂の旅に出ても、根幹は変わらんと言うが、こんなところで卯兎っぽさを出さなくて良いのぢゃ!!聞いておるか?瞳子!!」
瞳子は、兎士郎を一瞥すると振り向きもせず、すたすたと宴会場へ入っていった。
「瞳子、瞳子、聞いておるか?おい!!!」
兎士郎はまだ怒鳴っている。
「漣くん、こっちこっち、ここへ置いて。筆も一緒にね」
「こちらでよろしいですか?」
漣は運び入れていた台を入り口に入ってすぐのところへ持ってきた。
「じゃ、その上の壁にこれ、貼っておいて」
瞳子は、もってきた紙を漣に渡した。
紙には、こう書かれている。
紫:学び
赤:感謝
白:約束
黄:恋愛や人間関係
青:成長
「なんです?これ?」
「ふふふ・・・宴が始まればわかるわよ。これが卯兎さんの『上弦の月の宴』と私の『上弦の月の宴』の大きな違いよ」
そう言い残すと、今度は秋菟のもとへ行って、なにやら耳打ちしている。
秋菟は、大きくうなずきながら、にこにことしている。漣はなんだか仲間外れにされているようで、ムッとしたが、「大人げない」と自身を戒めて、いつものクールな表情で座敷全体を見渡している。
千早を着て正装した弥狐と沙雪がそれぞれ螺鈿のワゴンを押してきた。
「弥狐も沙雪も千早なんて持っていたのか?」
漣が二人に声を掛けた。
「卯兎のを借りた」
「借りた」
ワゴンを押しながらそれぞれに答えた。
「でも、千早なんぞ着て、どうするつもりだ?」
「トーコがセイソ―しろって言った」
「セイソ―??ああ・・・正装か・・・しかし、どうして?」
「トーコ、『任せて!』って言った」
弥狐が瞳子の真似をしながら答えた。
怪訝な顔の漣を置いてけぼりに、二人はワゴンを押して会場へ入って行った。
「おいおい、お前たち!こんなところまで来なくて良いのだぞ」
大声で止めに入ったのは、兎士郎だった。階上からは「まだなのか?」と青龍の声。
宴会場から出てきた瞳子が秋菟に、「皆様をお連れして」と声を掛けると、瞳子は入り口のところで正座して皆の到着を待った。
待ちわびたと言わんばかりの皆に、瞳子は正座のまま頭を下げた。
その様子を見ていた雪兎も慌てて瞳子に並び、同様に正座して頭を下げた。
「おぉ?瞳子、どうしたのぢゃ、ずいぶんかしこまっておるの?」
姫龍と腕を組んで先頭で登場した黄龍が声を掛けた。
「はい。黄龍様、その八龍の皆様、新郎・鬼堂様の御親族、そして鬼族の皆様ならびに、各神族、神事庁、刑部省の皆々様、本日は、私の後輩・景子の祝言に多大なお祝いのお気持ちをいただき、ありがとうございます。本来なら、景子のご両親がいらっしゃるべきなんでしょうが、急なことでいらっしゃれず、私、盈月瞳子と夫・雪兎が祝言の立会人とともに、親代わりも務めさせていただきます。未熟者ではございますが、よろしくお願い申し上げます」
最初の口上を一気に言い切ると、大きな息を吐いた。
そっと頭を上げて見回すと、黄龍、姫龍はじめ、皆、にこやかな顔をして柔らかなまなざしで、瞳子たちを見ている。
その顔を見て、意を決したように一度口を引き結んで、さらに頭を下げて、続けて話し始めた。
「併せまして、皆様にお願いがございます。この宴の準備を手伝ってくれた、あやかしの子らをこの宴に同席させていただきたく・・・。今回は、いつもの神事のあとの宴とは違い、景子の祝言の宴。この子らにも一緒に祝ってもらいたいのです。鬼堂様と景子の結婚が、あやかしと神の街・幽世と現世の懸け橋となると思えば、この子らにも祝ってもらいたいのです。現世の景子の友人たちの分まで・・・」
兎士郎はこれ以上ないというくらい渋い顔をして、瞳子の言葉を遮った。
「しかし、瞳子、あやかしの子らをこの広間に立ち入らせるのはのぅ……」
他の神族たちからも賛否が入り乱れてざわつき始めた。
瞳子は、なおも何か言おうと口を開きかけたが、ふと息を呑んだ。
どう言葉を紡げば、この想いが正しく伝わるのか――。
そんな瞳子の迷いを感じ取ったのか、雪兎が正座のまま、わずかに前へ進み出た。
「皆様に申し上げます。この宴は、卯兎さんのためでもあるんです。」
雪兎は、静かに言葉を紡いだ。
「鬼堂様と景子ちゃんのお祝いに用意したのはもちろんですが、私たちがここ・幽世に来るきっかけとなった卯兎さんのためにも用意したんです。幼馴染と聞いております鬼堂様の祝言となれば、今日のこの日をどれほど喜ばれたでしょうね。しかしながら、それは叶いません。なので、卯兎さんをよくご存じの子らに、代わって出席してもらい、最後に仕切った宴――『上弦の月の宴』 それをもう一度、皆さんと作りたいんです」
うろうろと落ち着きなく宴会場の外廊下を行き来する兎士郎。階下から瞳子が上がってくるのを見るなり、走り寄った。
「瞳子、広間を見たが、な、な、なんなんだ?あの様子は!!今日は、祝いの場。黄龍様以下、八龍様、それに鬼神の一族の祝言ゆえ、各界神族のみなさまがご列席なのじゃ。その祝いの席が、野っ原の様相とはどういうことぢゃ!!まったく、魂の旅に出ても、根幹は変わらんと言うが、こんなところで卯兎っぽさを出さなくて良いのぢゃ!!聞いておるか?瞳子!!」
瞳子は、兎士郎を一瞥すると振り向きもせず、すたすたと宴会場へ入っていった。
「瞳子、瞳子、聞いておるか?おい!!!」
兎士郎はまだ怒鳴っている。
「漣くん、こっちこっち、ここへ置いて。筆も一緒にね」
「こちらでよろしいですか?」
漣は運び入れていた台を入り口に入ってすぐのところへ持ってきた。
「じゃ、その上の壁にこれ、貼っておいて」
瞳子は、もってきた紙を漣に渡した。
紙には、こう書かれている。
紫:学び
赤:感謝
白:約束
黄:恋愛や人間関係
青:成長
「なんです?これ?」
「ふふふ・・・宴が始まればわかるわよ。これが卯兎さんの『上弦の月の宴』と私の『上弦の月の宴』の大きな違いよ」
そう言い残すと、今度は秋菟のもとへ行って、なにやら耳打ちしている。
秋菟は、大きくうなずきながら、にこにことしている。漣はなんだか仲間外れにされているようで、ムッとしたが、「大人げない」と自身を戒めて、いつものクールな表情で座敷全体を見渡している。
千早を着て正装した弥狐と沙雪がそれぞれ螺鈿のワゴンを押してきた。
「弥狐も沙雪も千早なんて持っていたのか?」
漣が二人に声を掛けた。
「卯兎のを借りた」
「借りた」
ワゴンを押しながらそれぞれに答えた。
「でも、千早なんぞ着て、どうするつもりだ?」
「トーコがセイソ―しろって言った」
「セイソ―??ああ・・・正装か・・・しかし、どうして?」
「トーコ、『任せて!』って言った」
弥狐が瞳子の真似をしながら答えた。
怪訝な顔の漣を置いてけぼりに、二人はワゴンを押して会場へ入って行った。
「おいおい、お前たち!こんなところまで来なくて良いのだぞ」
大声で止めに入ったのは、兎士郎だった。階上からは「まだなのか?」と青龍の声。
宴会場から出てきた瞳子が秋菟に、「皆様をお連れして」と声を掛けると、瞳子は入り口のところで正座して皆の到着を待った。
待ちわびたと言わんばかりの皆に、瞳子は正座のまま頭を下げた。
その様子を見ていた雪兎も慌てて瞳子に並び、同様に正座して頭を下げた。
「おぉ?瞳子、どうしたのぢゃ、ずいぶんかしこまっておるの?」
姫龍と腕を組んで先頭で登場した黄龍が声を掛けた。
「はい。黄龍様、その八龍の皆様、新郎・鬼堂様の御親族、そして鬼族の皆様ならびに、各神族、神事庁、刑部省の皆々様、本日は、私の後輩・景子の祝言に多大なお祝いのお気持ちをいただき、ありがとうございます。本来なら、景子のご両親がいらっしゃるべきなんでしょうが、急なことでいらっしゃれず、私、盈月瞳子と夫・雪兎が祝言の立会人とともに、親代わりも務めさせていただきます。未熟者ではございますが、よろしくお願い申し上げます」
最初の口上を一気に言い切ると、大きな息を吐いた。
そっと頭を上げて見回すと、黄龍、姫龍はじめ、皆、にこやかな顔をして柔らかなまなざしで、瞳子たちを見ている。
その顔を見て、意を決したように一度口を引き結んで、さらに頭を下げて、続けて話し始めた。
「併せまして、皆様にお願いがございます。この宴の準備を手伝ってくれた、あやかしの子らをこの宴に同席させていただきたく・・・。今回は、いつもの神事のあとの宴とは違い、景子の祝言の宴。この子らにも一緒に祝ってもらいたいのです。鬼堂様と景子の結婚が、あやかしと神の街・幽世と現世の懸け橋となると思えば、この子らにも祝ってもらいたいのです。現世の景子の友人たちの分まで・・・」
兎士郎はこれ以上ないというくらい渋い顔をして、瞳子の言葉を遮った。
「しかし、瞳子、あやかしの子らをこの広間に立ち入らせるのはのぅ……」
他の神族たちからも賛否が入り乱れてざわつき始めた。
瞳子は、なおも何か言おうと口を開きかけたが、ふと息を呑んだ。
どう言葉を紡げば、この想いが正しく伝わるのか――。
そんな瞳子の迷いを感じ取ったのか、雪兎が正座のまま、わずかに前へ進み出た。
「皆様に申し上げます。この宴は、卯兎さんのためでもあるんです。」
雪兎は、静かに言葉を紡いだ。
「鬼堂様と景子ちゃんのお祝いに用意したのはもちろんですが、私たちがここ・幽世に来るきっかけとなった卯兎さんのためにも用意したんです。幼馴染と聞いております鬼堂様の祝言となれば、今日のこの日をどれほど喜ばれたでしょうね。しかしながら、それは叶いません。なので、卯兎さんをよくご存じの子らに、代わって出席してもらい、最後に仕切った宴――『上弦の月の宴』 それをもう一度、皆さんと作りたいんです」
