頭を抱え込んでいる結卯を背にして、兎士郎、刑、漣が顔を突き合わせて、ボソボソと話してはため息をつき、また話してはため息をつき・・・を繰り返している。
結卯は、そーっと顔を上げ、三人の様子を伺いみて不安げに紗雪と弥狐を見やるが、二人も結卯と同じくらい不安げな顔をしている。その後ろに並ぶ、見覚えのあるあやかし達も心配そうに結卯を見つめている。
「どうして?私、どうしちゃったの?」
『それは、こっちのセリフだっ!』
兎士郎、刑、漣、三人が振り返って突っ込む。
「・・・仕方のないやつじゃ。いま、覚えていることを言ってみろ?」
兎士郎が結卯の前にしゃがみこんで、尋ねる。
結卯は、ジッと目を閉じて大きく深呼吸した。
「私は、ココ幽玄館龍別邸の神殿に仕える神子で、神子の仕事がないときは、紗雪や弥狐、ポン太たちと裏山の畑の面倒見たり、卯兎の『めし処』を手伝ったり・・・。あ!卯兎!卯兎はどこに?」
結卯は、キョロキョロと室内を見回して、卯兎を探すが見つからない。
「え?卯兎は?卯兎はどこ?」
紗雪や弥狐を見る。二人は、目を伏せて首を振る。後ろのあやかしたちを見るも、二人と同じように首を振っている。
「・・・う・・・そ・・・卯兎、いない?・・・なんで?なんでなの?」
紗雪の肩を掴んで揺さぶるが、紗雪は悲し気にして首を振るばかり。
「兎士郎様、どういうことです?卯兎は、どうしちゃったんです?」
「お、お前、そこからなのか?」
兎士郎は呆れ顔を刑と漣に向けると、2人は万策尽きたとばかりに、天を仰いでいる。
兎士郎もそんな二人に倣うように天を見上げて、大きなため息をついた。
そんななか、竹のあやかし・竹暁が進み出て、持っていた笹を結卯の前に置いた。続いてポン太が竹を切って作った器を並べ、小虎と呼ばれるあやかしが禊萩を活けた細い竹筒を並べた。それを見ていた弥狐が弾かれたように奥へ駆け込むと、狐火を灯した竹皿を持ってきて、竹暁の持ってきた笹を立たせて、その枝に吊るした。
弥狐が狐火の皿を吊るしたのを機に、あやかしたちが笹の周りに集まった。
「大変だったね。『上弦の月の宴』の準備」
「でも楽しかったよ」
「黄龍様のお顔を初めて見たよ」
「卯兎の料理、おいしかったね」
「姫龍様が大喜びされたのはなんだったけ?」
口々に、「あの夜」の宴の思い出話を始めた。本当に楽しげに。うれしげに。そして、誰もが「あの夜」のあの時間を愛おしげに口にする。
笹をぼぉっと眺め、揺れる狐火を見つめる結卯の目に、いままでになかった光が灯った。
「あぁ・・・卯兎・・・。魂の旅に出たんだったね・・・」
涙が頬を伝う。
「思い出したようぢゃの」
兎士郎がホッとしたようにしつつ、自分の手ぬぐいで涙を拭いてやる。
結卯は、居住まいを正して、兎士郎、刑、漣に向き直り、正座のまま頭を下げた。
「ただいま、戻りました。途中、御印を失くし、卯兎を見失ってしまいました。でも、今回同行した盈月瞳子さんが卯兎の7度目の転生だったんですよね?で?卯兎は?」
三人を見上げるが、三人ともに首を横に振ってため息をついている。
「私、私は、どうやって幽世の記憶を取り戻せたんでしょうか?御印を失くしたままでは幽世の記憶はないまま、『景子』として生を終えれば、また転生を繰り返すか?天界に住まうか?いずれにしてもここへは戻れなかったのでは?」
「確かにそうだ。でも、お前の魂の執念とでも言うべきか?お前は意識せぬままであったが、現世で『卯兎』を見つけて、その近くにいた」
「漣、なかなか上手いこというな。『魂の執念』か。そうやも知れぬな」
刑が漣の言葉にうなずきつつ、感慨深そうに天を仰いだ。
そのあとを受け取って、兎士郎が続ける。
「卯兎が魂の旅に出ると言い出したとき、お前が是が非でも付いていくと言ったときの勢いはまさに、鬼気迫るものがあったからな。ただ、粗忽なお前のこと。7回の転生の間に何かしらやらかしてくれるんじゃないかと心配しておったら、案の定。6度目には卯兎が80歳で天命を終え、7度目の転生に向かったのに、お前は101歳の長寿を全うしたうえに、御印持つことなく7度目の転生を迎えて・・・。御印のないお前の転生先がわからぬわ、いままでなら姉妹や従妹という近さにいた卯兎の転生先もわからぬまま・・・」
兎士郎の言葉は、最後はあふれ出る涙で続かなかった。
「兎士郎様、しっかりしてください。まだ、これからなんですから。コイツには卯兎様の魂の記憶を呼び覚ます役目を最後までやってもらわねばならないのですよっ」
漣が兎士郎の背を撫でながら、立ち上がらせて、神薙の神具のひとつ真榊と海をそのまま映し取ったたような青い龍珠を握らせた。
手渡された青い龍珠をジッと見つめていた兎士郎は、狩衣の乱れを正し、襟元を整えると真榊を握る手にグッと力を込めた。
「そうですな。卯兎をココに戻すまでは、このうつけ者でさえ、その執念が卯兎を見つけ出してきたというに、我らがその魂を目覚めさせなければ、我らの沽券にかかわるというもの!さて、最後の仕上げとまいりますかな」
結卯は、そーっと顔を上げ、三人の様子を伺いみて不安げに紗雪と弥狐を見やるが、二人も結卯と同じくらい不安げな顔をしている。その後ろに並ぶ、見覚えのあるあやかし達も心配そうに結卯を見つめている。
「どうして?私、どうしちゃったの?」
『それは、こっちのセリフだっ!』
兎士郎、刑、漣、三人が振り返って突っ込む。
「・・・仕方のないやつじゃ。いま、覚えていることを言ってみろ?」
兎士郎が結卯の前にしゃがみこんで、尋ねる。
結卯は、ジッと目を閉じて大きく深呼吸した。
「私は、ココ幽玄館龍別邸の神殿に仕える神子で、神子の仕事がないときは、紗雪や弥狐、ポン太たちと裏山の畑の面倒見たり、卯兎の『めし処』を手伝ったり・・・。あ!卯兎!卯兎はどこに?」
結卯は、キョロキョロと室内を見回して、卯兎を探すが見つからない。
「え?卯兎は?卯兎はどこ?」
紗雪や弥狐を見る。二人は、目を伏せて首を振る。後ろのあやかしたちを見るも、二人と同じように首を振っている。
「・・・う・・・そ・・・卯兎、いない?・・・なんで?なんでなの?」
紗雪の肩を掴んで揺さぶるが、紗雪は悲し気にして首を振るばかり。
「兎士郎様、どういうことです?卯兎は、どうしちゃったんです?」
「お、お前、そこからなのか?」
兎士郎は呆れ顔を刑と漣に向けると、2人は万策尽きたとばかりに、天を仰いでいる。
兎士郎もそんな二人に倣うように天を見上げて、大きなため息をついた。
そんななか、竹のあやかし・竹暁が進み出て、持っていた笹を結卯の前に置いた。続いてポン太が竹を切って作った器を並べ、小虎と呼ばれるあやかしが禊萩を活けた細い竹筒を並べた。それを見ていた弥狐が弾かれたように奥へ駆け込むと、狐火を灯した竹皿を持ってきて、竹暁の持ってきた笹を立たせて、その枝に吊るした。
弥狐が狐火の皿を吊るしたのを機に、あやかしたちが笹の周りに集まった。
「大変だったね。『上弦の月の宴』の準備」
「でも楽しかったよ」
「黄龍様のお顔を初めて見たよ」
「卯兎の料理、おいしかったね」
「姫龍様が大喜びされたのはなんだったけ?」
口々に、「あの夜」の宴の思い出話を始めた。本当に楽しげに。うれしげに。そして、誰もが「あの夜」のあの時間を愛おしげに口にする。
笹をぼぉっと眺め、揺れる狐火を見つめる結卯の目に、いままでになかった光が灯った。
「あぁ・・・卯兎・・・。魂の旅に出たんだったね・・・」
涙が頬を伝う。
「思い出したようぢゃの」
兎士郎がホッとしたようにしつつ、自分の手ぬぐいで涙を拭いてやる。
結卯は、居住まいを正して、兎士郎、刑、漣に向き直り、正座のまま頭を下げた。
「ただいま、戻りました。途中、御印を失くし、卯兎を見失ってしまいました。でも、今回同行した盈月瞳子さんが卯兎の7度目の転生だったんですよね?で?卯兎は?」
三人を見上げるが、三人ともに首を横に振ってため息をついている。
「私、私は、どうやって幽世の記憶を取り戻せたんでしょうか?御印を失くしたままでは幽世の記憶はないまま、『景子』として生を終えれば、また転生を繰り返すか?天界に住まうか?いずれにしてもここへは戻れなかったのでは?」
「確かにそうだ。でも、お前の魂の執念とでも言うべきか?お前は意識せぬままであったが、現世で『卯兎』を見つけて、その近くにいた」
「漣、なかなか上手いこというな。『魂の執念』か。そうやも知れぬな」
刑が漣の言葉にうなずきつつ、感慨深そうに天を仰いだ。
そのあとを受け取って、兎士郎が続ける。
「卯兎が魂の旅に出ると言い出したとき、お前が是が非でも付いていくと言ったときの勢いはまさに、鬼気迫るものがあったからな。ただ、粗忽なお前のこと。7回の転生の間に何かしらやらかしてくれるんじゃないかと心配しておったら、案の定。6度目には卯兎が80歳で天命を終え、7度目の転生に向かったのに、お前は101歳の長寿を全うしたうえに、御印持つことなく7度目の転生を迎えて・・・。御印のないお前の転生先がわからぬわ、いままでなら姉妹や従妹という近さにいた卯兎の転生先もわからぬまま・・・」
兎士郎の言葉は、最後はあふれ出る涙で続かなかった。
「兎士郎様、しっかりしてください。まだ、これからなんですから。コイツには卯兎様の魂の記憶を呼び覚ます役目を最後までやってもらわねばならないのですよっ」
漣が兎士郎の背を撫でながら、立ち上がらせて、神薙の神具のひとつ真榊と海をそのまま映し取ったたような青い龍珠を握らせた。
手渡された青い龍珠をジッと見つめていた兎士郎は、狩衣の乱れを正し、襟元を整えると真榊を握る手にグッと力を込めた。
「そうですな。卯兎をココに戻すまでは、このうつけ者でさえ、その執念が卯兎を見つけ出してきたというに、我らがその魂を目覚めさせなければ、我らの沽券にかかわるというもの!さて、最後の仕上げとまいりますかな」
