(てん)は、ユキ先輩がコウタ先輩に告白するシーンから。
 練習中も見物禁止だったシーン。

 得意のパントマイムを使い、()を使い。
「『ずっと……コウタが好きだったの』」と言ったユキ先輩は。
 目が釘づけになるぐらい、全身で恋する乙女を表現していた。

「『……返事、もらえる?』」

 コウタ先輩がユキ先輩に近づき、頭を下げた。

「『ごめん。ユキの気持ちにはこたえられない』」

 下向きで発声しているのに。
 コウタ先輩の声が、響き渡る。

「『……理由、聞いてもいい?』」

 屋上で話した時、コウタ先輩は言っていた。
 フった理由は、本人には内緒だと。
 わたしは、顔を上げたコウタ先輩の背中を見つめる。

「俺、さ。演劇が大好きで。他の何よりも演劇が一番で。演劇のために、いろんなものを捨ててきたんだ。演劇しか見えてない、ちっぽけな人間だったんだ。
 でも、高校に入って。そんな俺じゃダメだって、キラキラしている事は演劇だけじゃないって、たくさんの人が教えてくれた。
 ユキ。俺、好きな子ができたんだ。演劇と同じぐらい大事で。演劇よりも大切にしなくちゃいけない。そう心から思える、たった一人の、特別な子が、できたんだ。
 だから、ユキとはつきあえない。好きって言ってくれて、嬉しかった。ありがとう」

 ユキ先輩の頬を涙がすべる。
 わたしの頬を涙がすべり落ちる。

 演劇大好きなコウタ先輩が。
 演劇と同じぐらい大事だって。
 それ以上に大切だって。
 たった一人の特別な子だって。
 自分の言葉で、ハッキリ言ってくれた。

 ほんとう、ズルイですよ、コウタ先輩。
 文化祭の舞台なのに。演劇部との勝負なのに。
 熱があふれて、温かい涙が止まらないじゃないですか。
 わたしも、コウタ先輩が大好きです。

「『教えてくれて、ありがとう』」

 涙を流しているはずなのに、ユキ先輩の表情は清々(すがすが)しい。
 きっと、ユキ先輩の中に残っていたシコリを。
 コウタ先輩のまっすぐな言葉が()かしたんだ。
 わたしは涙をぬぐい、あわてた様子で二人の前へ。

「『大変です! @home(アット・ホーム)が……なくなるかもしれません!』」
「『はるかちゃん、落ちついて。どういう事?』」
「『会議で言われた。正式な部があり、活動内容が(かぶ)る同好会。かつメンバーが五人以下の場合、文化祭終了後に解散だ』」

 少し遅れ、メガネ先輩が登場。
 緊張(きんちょう)した空気が体育館を包む。

「『わたし、嫌です! @home(アット・ホーム)がなくなるの!』」
「『……私も、嫌』」
「『同感だ。好きな事を楽しむために、同好会を選ぶ者もいる。そうだろう?』」

 メガネ先輩のセリフにうなずく、観客の一部。
 体育館の壁にもたれ、腕組みをしたままのスパルタ部長を、わたしは横目で見る。

 わたしは、@home(わたし達)は、楽しみます!
 それが、舞台対決の本番だとしても!

 考えていたコウタ先輩が、パチンと指を鳴らす。
 観客の注意を引き戻し、にっこり笑った。

「『@home(アット・ホーム)の楽しさを伝えられる舞台を、文化祭で上演しよう。
 演劇って、難しそう。演劇って、何をするんだろう。そう思っている人達に、演劇は楽しいものだって、少しでも感じてもらえたら。俺達の仲間に、なってくれるかもしれない。
 ルールその一。新しい事を始める時は、メンバー全員が賛成したら。賛成する人は、手を重ねて!』」

 コウタ先輩が手を置き、メガネ先輩とユキ先輩が手を(かさ)ね、桜木くんが音声で手を重ね、一番上に、わたしが手を置いた。

「『一人一人が楽しもう! @home(アット・ホーム)活動スタート!』」

 暗転。
 上のついたてをどかし、舞台中央につながる道を作る。
 ライトに照らされつつ階段を上り、舞台に上がったのはメガネ先輩。
 物語は、終幕(しゅうまく)へ。