高校生活の1年、2年は楽しく過ごした。

 隼人が中学時代から仲が良かった友人4人を紹介してもらい、6人で遊ぶ事も多かったが、なんだかんだと隼人のペースに巻き込まれていた僕は、気がつくと隼人といつも一緒に過ごしていた。

 3年生に上がった春、進路希望の紙が配られる。

 よほど成績が悪くなければ、付属の大学まで無試験であがれる環境の僕は、このまま仲間達と大学に行くつもりだった。

「有、どーする? 進路」
「付属の大学行くよ。誠は?」
「僕も」
「俺らもそうするつもりー」

 皆が同じ大学に行く事に僕はホッとする。

 また、皆と騒げるな。楽しい大学生活になりそうだ。

 笑いながら大学の話をしていた僕達だったが、いつもは率先して喋る隼人が黙っている事が気になり、躊躇しつつも尋ねてみる。

「隼人……付属の大学、行くよね?」

 少し思い悩んでいるような隼人の顔に僕は嫌な予感がしてならない。

「ああ……うん。ちょっとな。悩んでる」
「悩んでる!?」

 そこにいた全員が驚きの声を上げた。

「えっ? えっ? どういう事? 大学……行かないの?」

 てっきり大学も隼人と一緒だと思っていた。思っていたのに……

「大学は行くつもりだけど……もしかしたら……他大学に行くかも」
「どこ行くん?」

 言い辛そうに話す隼人に、礼弥が頬杖をつきながら続きを促した。

「あ、うん。東京の大学からラグビーのスカウトきててな」
「そんなん! 聞いてないよ!!」

 机をバンッと叩き、思わず怒鳴ってしまった僕。

 わかってる。隼人の進路。隼人の人生。僕が勝手に大学も一緒だと思っていただけ。

 でも、なんで相談してくれないんだよ!!
 僕はそんな頼りない友達か!?
 隼人がいない大学なんて……隼人が僕の隣にいないなんて!!

 隣にいないなんて……?

 今、僕は何を思った? 隼人は仲の良いただの友達のはず……

 ただの友達……?
 ただの……友達?

 …………違う。

 僕は気がついてしまった自分の思いに狼狽(うろた)えた。


 僕に……僕にとって隼人はただの友達じゃ……ない。

 自分の気持ちを自覚した僕はその場にいる事に耐えられなくなり、走って教室を出ていった。

「お、おいっ!」

 隼人の声が後ろから聞こえたが、今の僕の顔なんか見られたくない。きっと、涙でぐちゃぐちゃだ。

 僕の足はいつの間にかラグビー場に着き、ぼんやりゴールポストを眺めていた。

 あの日から、隼人(あいつ)のプレイしている姿を見にいっては隼人のかっこよさに見惚れ、僕は高揚感溢れる日々を送っていた。

 そうか……僕は隼人が……好きだったんだ。だから隼人を見ている時、あんなに胸が躍ったんだ。男同士……気持ち悪いって思われる……この気持ち、隼人に気づかれてはいけない。

 でも……

 せめて、親友として隣にいたかった。それぞれ別の道を歩む事になるなんて、思いもしなかった。辛い、辛すぎる。東京できっとかわいい彼女も……

「おい! 有」

 隼人の声が聞こえ、僕は慌てて俯いた。

「なんだよ。追いかけてくんなよ」

 本当は嬉しいくせに、素直になれない。

 隼人は少し怒ったように僕の腕をぎゅっと掴む。

「泣いてる奴、ほっとけないだろ」

 なんだよ。なんで、そんなに優しいんだよ。

 隼人の優しさが心に染みて、余計、涙が止まらない。「離れたくない!」と叫んでしまいそうになり、唇をぎゅっと噛み締める。

「ごめんな……相談しないで。俺もお前達と別れるの寂しくてさ。言い辛かったんだよ」

 顔を上げると、隼人は決心したような強い眼差しで僕を見ていた。

「もう……決めたんだね」
「うん……俺、強豪大学で自分がどこまでやれるか試したくて……ごめんな」
「なんで、謝るのさ!」
「さぁ、なんでだろうな。俺にもわかんね。でも、お前に謝りたかったんだ」

 隼人は苦笑したが、すぐに真面目な顔をする。

「俺、頑張るからさ。俺が東京に行っても応援してくれよな」

 固い意志を宿らせた目で微笑んだ隼人に僕は思う。

 ああ、これが僕の好きな隼人(ひと)だ……

「弱音吐いたら、許さないからな!」

 僕がプイっと横を向くと、隼人はおかしそうにハハッと笑った。

「厳しいなぁ」

 隼人の優しい声に応援したい思いと離れたくない我儘が僕の心でせめぎ合い、ぎゅっと胸を締めつける。