「やった! 揃った。俺の勝ちぃぃ!」
大介がラスト2枚の手札をバシッと勢いよく、皆の前に出した。
「ちぇっ」
隼人の悔しそうな舌打ちが聞こえる。
「最後に残った有と隼人、罰ゲームな!!」
「罰ゲーム! 罰ゲーム! 罰ゲーム!」
負けた僕と隼人以外のメンバーが手拍子とともに僕達を囃し立てた。隼人は左手で頭をポリポリ掻き、苦笑する。
「仕方ねぇなぁぁ」
僕も口をへの字に曲げ、困ったアピールを表面上はしていたが、本当は隼人との罰ゲームに胸がドキドキしぱなっしだった。
ここは小豆島の民宿の一室。
僕、日野平有は高校最後の思い出作りに仲間達と卒業旅行にきている。
とことん遊んだ僕達は観光するのも疲れてしまい、部屋でのんびりババ抜きをしていた。途中で罰ゲーム付きになり、勝負も白熱していたが、結果、僕と隼人が負けてしまう。
ワーストワン、ツーの2人は小豆島の観光スポット「エンジェルロード」を歩き、写真を撮ってくるという罰ゲームだ。だが、写真を撮るだけでは罰ゲームにならない。それではただの観光だ。
1日2回干潮時に砂の道が現れ、隣の島まで歩く事ができるエンジェルロード。
大切な人と手を繋いで渡ると願いか叶う。
その不思議な現象ゆえ、ロマンチックな言い伝えのある人気のスポットであり、負けた2人は男同士手を繋いでエンジェルロードを渡りきるというのが、今回の罰ゲームなのだ。
「仕方ねぇな。有、行くかぁ」
ニッと僕に笑いかける隼人に僕の胸はトクゥンと小さく脈打った。その気持ちを悟られないよう、慌てて僕はスマホを手に取る。
「そ、そうだね。エンジェルロードの潮見表チェックしないと」
「午後からは何時だ?」
隼人が後ろから僕のスマホを覗き込んだ。頬が触れそうなほどの距離に隼人の顔があり、隼人の男らしい匂いが僕の鼻腔を刺激する。顔が赤くなっているんじゃないかと焦った僕はスマホを落としそうになった。
ち、近いってば。
隼人は相変わらず距離感がおかしい。
「16時11分から干潮みたいだぞ?」
僕がトロトロしている間に仲間の誠が調べてくれ、スマホの画面を僕らに見せる。
「マジか! 有、そろそろ出なきゃだ!」
隼人がスクッと立ち上がり、出掛ける準備を始めた。
「う、うん……みんなはさ、どうするの?」
残り4人のメンバーを見ると、誠は寝転がってスマホを見てるし、大介と仁と礼弥はトランプで大貧民大富豪を始めていて、一緒に行く気配がまったくない。
「あーー適当に時間潰してるわー」
「カップルばっかりだぜーーめんどくせー」
「みんなで行ったら、罰ゲームじゃないだろうが」
「いってらー」
それぞれがやる気のなさそうな声を出し、手をひらひらさせる。
「写真、よろしくな」
えっと……隼人と2人きりなの……?
「しゃーねーな。有、行くかっ」
困惑している僕の様子には全然気がつかず、ポンッと僕の肩を叩くと隼人はスタスタと部屋を出て行ってしまった。
「ちゃんと手を繋いでいる写真も撮ってこいよ。罰ゲームなんだからさ」
大介の言葉にカッと火照る僕の顔。ニヤニヤ笑う残りの3人。
えっ? えっ? えっ?
「思い出、作ってこいや」
仁がトランプの札を真剣に見ながら、僕に声を掛け…………驚いた僕は皆を見渡す。
「有、早くしろよーーー」
先に行ってしまった隼人の大声が聞こえ、僕は真っ赤になったであろう顔を隠しながら「いってきます」と小声で呟いた。
これがエンジェルロードかぁ。
目的の場所に着いた僕達は海と海に挟まれた白い砂の道が1本、隣の島へと続いている光景にポカンと口を開けたまま、眺めていた。
観光案内やガイドブックの写真で見ていたけど、なんだか不思議な景色だ。普段は海の中にある砂の上を歩けるなんて……しかも、隼人と。
チラリと隼人に目をやると興味深げに海の間にある砂道を見ている。
「へぇ……すごいな」
「トンボロ現象って言うらしいよ」
「お前、詳しいな」
ガイドブックで得た知識を得意げに披露すると、感心したように隼人は笑い、僕は少し照れた。
隼人達との旅行が楽しみでとことん調べたからね。
「あいつらも来れば、良かったのになーー」
「あ、う、うん……」
隼人の何気なく発した言葉に僕は少し口ごもる。
あいつらが来なかったのは、たぶん……
俯いていると、隼人が心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「どうした? 具合悪いか?」
やっぱり、こいつは距離感おかしい!!
「大丈夫だよ!! あんま、でかい顔寄せんな!」
「ああ、わり」
ハハッと笑った隼人の精悍な顔が眩しくて、僕は怒った振りしながらもチラチラと見てしまう。
ああ、隼人はあの時と全然変わらないな。