「歩咲、遊びに行こうよ」
「あーごめん、私、今日も忙しいから」
 目を逸らすとたまたま視界に入った、向こうから歩いてくる望月くんを見つける。隣には女の子がいて、髪が長くてメイクの濃い女の子。いわゆるギャルが隣にいても見劣りしないのだから彼も華があるのだ。
 そういえば昼休憩の時、あの女の子と中庭にいるのを見たっけ。いつも彼の周りには誰かいるが、一対一というのは珍しくて目に付いた。
「昨日もそうだったじゃん」
「まあまあ」
 紬の文句を右から左へ受け流しながら、彼女が望月くんの腕に絡んだのを見てしまう。
 無性に、胸が痛んだ。突き付けられたようだった。彼と私では生きている世界が違うと。同じ空間にいるのに、毎夜会っているのに、私の知らない望月くん。
「じゃあ今日電話してくれる?」
 聞きたくもないのに、彼女と望月くんの会話が耳に入ってしまう。
「するする、めちゃくちゃするわ。どっちかが寝落ちるまでしような」
「もー、一声って甘えん坊?」
「馬鹿、違うよ。甘えん坊はそっちだろ」
 小さな頭を小突く望月くんと、それに笑い声を上げる彼女が私たちの横を通り過ぎていく。
「ねえ、歩咲。聞いてる?」
「え?」
 遠ざかっていく二人の笑い声とは裏腹に、大きな声が私を呼び戻す。一瞬、望月くんと目が合った気がする。本当に一瞬だったから気のせいかもしれない。でもその一秒が私を現実から遠ざけた。
 我に返った視界には、紬が頬を膨らませて、私の手を取っていた。
「いっつも忙しいって言うじゃん、ねえ、何で? どっか行くところあるの? 部活とかやってたっけ? バイトとか? あ、親が厳しいとか」
「うるさいな」
 ついため息が出た。こういう粘着質なところが、苦手だ。