望月一声。私よりひとつ年上の男の子。容姿端麗運動神経抜群、勉強はてんで駄目らしいが、加えてお調子者で周りにはいつも人がいる。彼に二つ名を与えるなら歩く青春。
 対して私は平々凡々だが根が暗い。青春とは程遠いし、学年も違うから話すことはないだろう……と、本当に、今でも思う。
 授業中、ぼんやりと窓の外を眺めていると体育の授業を受けている望月くんと目が合い、ウインクと投げキッスを送ってきた。呆れて空に視線を変えた。
 私たちには人には言えない秘密がある。言っても信じてもらえない不思議なこと。夜にだけ現れる秘密の場所。
 放課後になって家に帰り、晩御飯を食べて夜には眠りにつく。少しだけわくわくしているのは望月くんには言わないでおこう。徐々に遠のいていく意識の中でそう思った。
「今日、無視しただろ……」
 気が付くと目の前に望月くんがいた。外ではセットしている髪がぺたんこになり、しっかりパジャマに身を包んでいる。優しそうなタレ目で私を見て、薄い口をへの字に曲げ、せっかくの高い身長が猫背のせいでまあまあ暗い印象を持つ。外の彼とは全然違う姿。
「無視じゃないよ。外であなたと関わりたくないだけ」
「酷い……」
 ため息混じりに文句を呟くと彼は私の横に腰掛けた。体育座りをしている私を真似て……というよりは、それが彼の落ち着く座り方らしい。