「では、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
♢ ♢ ♢
私は紗良。とある企業の経理部で働いている。私が今いる場所は…
「んー…あいつらは何飲むかな?」
スーパーのお酒売り場。今日の晩酌用の缶チューハイ3つと、パッと見た感じ美味しそうな気がした瓶入りのお酒が、カゴの中に入っている。
「もう、これでいいや。」
さっさと帰って、好きなだけ飲んじゃえ。
♢ ♢ ♢
「紗良、おかえり。」
「ただいま。ちゃんと買ってきたよ。」
この子は麗華。私と一緒にハウスシェアをしている仲間で、幼馴染。イラストレーターなので、家ではよく絵を描いている。
「ワイン!」
「喜んでくれると思った。麗華が好きそうだから買ってみたの。」
「さっすが紗良!分かってんじゃん!」
若干ほろ酔い気味の麗華。この調子だと一足先に晩酌をしていたな。このお酒たちは明日以降に飲むことにしておこう。飲み過ぎは良くない。
それにしても、お酒の値段は上がるくせして、給料は一切上がらない。まあ、みんなと楽しく過ごせるお金があるからそこまで気にはならない。
(でも、最低賃金額をもう少しだけ上げてくれたらいいのになー…大体、社長もケチすぎるのよ…もうちょっとだけ分けてくれたっていいのに!)
怒り狂いそうになったけど、一旦我慢。どうせ酔ったら、知らない間に愚痴を吐いてるから。
「そういえば美鈴は?」
「ここを見ての通り、一足先に晩酌を始めて寝ちゃった。」
リビングで突っ伏して寝ていたのは、頬がほんのり赤くなった美鈴。こちらも私たちの幼馴染で、ウェディングプランナーとして働いている。
「瓶を丸ごと一本飲みそうになってたから、取り上げたら拗ねて寝ちゃってね…」
「それ、何%の?」
「70%の水で割るタイプのウォッカ。」
「は⁈結構やばいじゃん!」
「ホントに危なかったよ。急いで取り上げて隠したから良かったけど、飲んでたら流石に体には良くないわよね…」
美鈴はストレスが溜まったときに一気に飲むタイプ。おそらく、職場で上司と揉めたのだろう。いつものこと過ぎて何とも思わないけど。
「せっかくだから紗良も飲もうよ~」
「分かった分かった!手を洗ってからね。」
今日のお酒は、例のウォッカのサイダー割りにしよう。
(美鈴にバレないように棚から取り出さないと…)
♢ ♢ ♢
今日は給料日。いつもの如く給料の手取りは少ない。
(給料全体で考えたらもっと多いはずなのに。)
でも、給料をもらえるだけでとてもありがたい。もらえなくなったら上司の耳元で思い切り叫んでやろうではないか。なーんてね。
「たっだいまー!」
「あ、紗良…」
「…?」
珍しく浮かない顔をしている麗華。こんな顔は多分だけど出会って初めて見た顔だと思う。
「何かあったの?」
「実はね、今日の昼前に美鈴が帰って来たの。」
「え…?そんなに早く帰って来ることなんて…」
「もちろんない。だから、美鈴に聞いてみたの。」
どうしよう…嫌な予感しかしない…
「う、うん…」
「急に会社側からリストラされたって…」
「——え?」
「私も、美鈴から話を聞いたりネットで調べたりしてみたけど、明らかに不当なリストラなの。会社側からの圧力に負けた美鈴が、違法性に気付かずにリストラを受け入れてしまったらしい。」
リストラと聞いた瞬間、頭が凍り付いた。まさか…まさか自分の身近な人がそんなことになってしまうなんて、思いもしなかった…
「それで、美鈴は…?」
「部屋にこもったまま。缶チューハイ三本くらい持って行ってたかな?度数強いやつは前から隠していたから持って行ってはないはず…」
どうしよう…下手に美鈴の部屋に入っちゃうのも流石によくないよね…?でも、話を聞かない限り何も分からないし…けど…
「少し話はしてみたの。そしたらね…」
「——部長に言われた…?」
「うん。それで、社長にも話を聞きたいって美鈴も言ってみたらしいけど、思いっ切り怒鳴られて、荷物を整頓して帰れだとか、二度と顔を見せるなだとか。しかもみんながいない間だったらしくて、誰にも助けを求められなかったらしい。」
悪質極まりない。こんなことをする人間が世の中にいるとは…本当に信じたくない。
「会社に殴り込みは?」
「待って紗良、落ち着いて。ここは法的に対処しよう。これは私たちだけでどうにかなる話じゃない。」
「だよね。でも、どうすれば…」
「大丈夫。例の上司の名前はもうマーク済み。」
流石は麗華。仕事が早い。
「まずは法対処について調べて、弁護士でも探そう。もちろん、美鈴の意見が第一だけどね。」
「うん。私たちの大切な人に手を出したことを後悔させてやろう!」
「そうね!」
それから数日間は法対処のことばかり調べていた。私は仕事を休み、麗華もイラストなどの納期を先延ばしにしてもらったらしい。
(美鈴がウェディングプランナーとして、もう一度輝いてほしい。)
美鈴がウェディングプランナーとなって働き始めた当初は、いつも明るい笑顔だった。
『聞いて聞いて!私、初めて一人でお仕事を任されたの。凄いでしょ!』
『最近ね、私の知名度が上がってるらしいの!嬉しいな~』
でも、それが気に食わないからか、上司とは段々と不仲になっていったらしい。
『あいつ、ホントにウザいんだけど。何なの?私は別に調子になんか乗ってないのに。』
『そんなに稼げない癖して、何で私に当たり散らしてくるわけ?マジで意味分かんないだけど。』
純粋に努力している人の夢が、何で努力しない人に奪われていくのか。信じられない。大人になってもそんな性格の人間だなんて、正直どうかと思う。
(何だか、大人げないって言うかね…)
それでも、何としてでも、美鈴の笑顔を取り戻す。
♢ ♢ ♢
(あ…さ?)
連日のように徹夜で法対応の件を考えていたら、どうやら寝落ちしてしまったらしい。
(でも、昨日は美鈴とも少し話ができたし…)
相当暗い表情だった。元気もなくなっていたみたいだったけど、食欲は戻ったみたいだった。美鈴の大好きなオムライスを作って美鈴に渡すと、ありがとうとだけ言って部屋に戻った。
(食器も戻ってきているから、全部食べられたみたい。)
ただ、ここで気になることが一つ。
(麗華?いないんだけど…)
私は麗華を探しに部屋から出ようとした。すると…
「紗良⁈美鈴を見なかった⁈」
「え?昨日は見たけど、今日は見てないよ…?」
「どうしよう…美鈴がいないの…部屋にもお風呂にもいないし、玄関を見に行ったら靴も無くなって…」
「え⁈」
(もしかして、何かあったのかな…)
「スマホに連絡を入れてみたけど既読もつかないし、電話をしても繋がらないの…」
どうしよう…でも、こういう時こそ落ち着いて…
「麗華、大げさかもしれないけど、警察に相談しよう。今からなら外にいるかもしれないし。」
「——そうね。とりあえず、外に出られる服に着替えましょう。今日は寒いから、コートも羽織ってね。」
「うん。」
間もなく用意を終わらせた私たちは、急いで家を飛び出した。
「紗良、最寄りの警察署は⁈交番でもいいわ!」
「あそこの交差点を左に少し向かったら交番がある!とりあえず、そこを目指そう!」
木枯らしが吹く晩秋の朝焼け。こんな中、美鈴はどこへ行ってしまったのだろう…
「あっ!」
「危ないっ!」
「ごめん、普段から外に出ないから、足がもつれちゃった…」
「いいよ!麗華、怪我はない?」
「うん。急ごう!」
交番の前に付いたときは、私も麗華も、もうへとへとだった。
「あそこに…警察官さん…が…」
「麗華、ゆっくり来て。私が先に事情を話すよ。」
「うん…ありが…と…」
交番の中に入ると、30代ほどの女性警察官と、20代ほどの男性の警察官がいた。
「おはようございます。本日はどうされましたか?」
「私と…私たちとハウスシェアをしている友達がいなくなっていたんです!」
私がそう説明している間に、麗華も交番に入ってきた。
「私と、今入ってきた彼女と、この写真の茶髪の彼女と三人で生活していて…」
焦る気持ちを押さえつつ、ゆっくりと説明する。美鈴は、過去に撮った写真を使って説明した。
「——分かりました。一度、こちらのソファーにおかけください。詳しくお話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「…はい。」
それから私たちは、美鈴の名前、特徴、私たちの名前、今回の家出の原因の心当たりについて洗いざらい話した。
「——そうでしたか。確かにお二人のおっしゃる通り、その解雇は違法性が疑われますし、今回の行方不明の原因にもなりそうですね…」
これからどうしたらいいのかな…もし…もし美鈴に何かあったら…
「紗良…あんた…」
「え?」
目から…水が…
「確かに、心配ですよね。でも、私たちが捜査をして必ず探し出します。私たちに任せてください。」
♢ ♢ ♢
あれからもう13時間。警察からの連絡は一向になく、美鈴からの連絡ももちろんない。
「——麗華…」
「何?」
「私たち、美鈴に負担をかけちゃったかな…?」
「——かもね…」
すごく申し訳ないことをしてしまった。美鈴の意見も聞かずに、勝手に話を始めてしまって…
(美鈴は、どうしたかったのかな…)
頭の中で、まとまらない考えがずっとぐちゃぐちゃしている。今は何も考えられない。いや、考えたくない。これ以上は考えたくない。
『ピリリリリッ』
私のスマホだ…着信元は…警察!
「はい、北川です。」
『北川紗良さんですね。篠谷美鈴さん、見つかりましたよ。』
「本当ですか…良かった…」
(美鈴が…見つかった…)
私は電話をしながら、麗華に筆談で美鈴が見つかったことを報告した。
♢ ♢ ♢
「「美鈴っ!」」
「紗良…麗華…」
「良かったよお…美鈴が戻ってきてくれたあ…」
「うん…ごめんね…」
「あんたは謝るな!無事だっただけ十分だよ…」
美鈴と感動の再開。みんなは涙でボロボロ。
「感動の再開のところ申し訳ないけれど…篠谷さんが見つかったのは…」
「「隣町の橋の上⁈」」
警察官さんから聞いてびっくり。涙が一気に引っ込んだ。
「あはは…一応徒歩で…」
「「「徒歩⁈」」」
今度は警察官さんもびっくり。流石にあの距離で徒歩はきついのでは…
「その…みんなに迷惑をかけちゃったし、会社でもほぼ人権無視で、もう自分のことなんてどうでもよくなって…その、なんて言うのかな。うん、いっそのこと消えたくなった。」
美鈴の正直な言葉に、胸がキュッとしまった。
「美鈴…」
「へへ…もうこんなこと言わないって、昔、約束したのにね。」
気づけば、美鈴に抱き着いていた。
「紗良…?」
「美鈴…今回は本当にごめんね。でも、もう消えたいだなんて二度と思わないで。」
「…うん。」
「もう一回、美鈴の進みたい道を探そう?きっと何とかなる。神様は乗り越えられる試練しか与えないよ?」
「うん。ありがとう!」
映画の感動のワンシーンみたい。
「それじゃ、帰りましょう。お世話になりました。」
「「お世話になりました。」」
麗華の声に続き、私たちも頭を下げた。
♢ ♢ ♢
「じゃあ、行ってきまーす!」
あれから数ヶ月、もう一度、美鈴はウェディングプランナーとして働くことにした。もちろん、あの会社ではない、別のところ。
「美鈴、元気になってよかったね。」
「そうね。あの会社から慰謝料も貰えたし。」
その後、私たちは例の件で訴訟を起こし、見事勝訴。慰謝料など、全て貰うことができた。
「紗良も、そろそろ仕事でしょ?」
「あっ!遅れちゃう!」
「急げ急げー!」
♢ ♢ ♢
「では、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
仕事終わりの一杯。やっぱり美味しい。
「そういえばね、今度の式は私が担当することになったの!」
「おー。初の一人仕事か。」
「そうなの!うふふ、すっごく楽しみ!」
「その式かな…私、行くよ?先輩が結婚したって言ってて、式の場所を聞いてみたら美鈴のところだったから。」
「えーっ⁈紗良、来ちゃうの?」
「行くよ~」
今日も大好きな人と、大好きなお酒を飲み、楽しく過ごす。こんな毎日が、ずっと続いてくれますように!
「「かんぱーい!」」
♢ ♢ ♢
私は紗良。とある企業の経理部で働いている。私が今いる場所は…
「んー…あいつらは何飲むかな?」
スーパーのお酒売り場。今日の晩酌用の缶チューハイ3つと、パッと見た感じ美味しそうな気がした瓶入りのお酒が、カゴの中に入っている。
「もう、これでいいや。」
さっさと帰って、好きなだけ飲んじゃえ。
♢ ♢ ♢
「紗良、おかえり。」
「ただいま。ちゃんと買ってきたよ。」
この子は麗華。私と一緒にハウスシェアをしている仲間で、幼馴染。イラストレーターなので、家ではよく絵を描いている。
「ワイン!」
「喜んでくれると思った。麗華が好きそうだから買ってみたの。」
「さっすが紗良!分かってんじゃん!」
若干ほろ酔い気味の麗華。この調子だと一足先に晩酌をしていたな。このお酒たちは明日以降に飲むことにしておこう。飲み過ぎは良くない。
それにしても、お酒の値段は上がるくせして、給料は一切上がらない。まあ、みんなと楽しく過ごせるお金があるからそこまで気にはならない。
(でも、最低賃金額をもう少しだけ上げてくれたらいいのになー…大体、社長もケチすぎるのよ…もうちょっとだけ分けてくれたっていいのに!)
怒り狂いそうになったけど、一旦我慢。どうせ酔ったら、知らない間に愚痴を吐いてるから。
「そういえば美鈴は?」
「ここを見ての通り、一足先に晩酌を始めて寝ちゃった。」
リビングで突っ伏して寝ていたのは、頬がほんのり赤くなった美鈴。こちらも私たちの幼馴染で、ウェディングプランナーとして働いている。
「瓶を丸ごと一本飲みそうになってたから、取り上げたら拗ねて寝ちゃってね…」
「それ、何%の?」
「70%の水で割るタイプのウォッカ。」
「は⁈結構やばいじゃん!」
「ホントに危なかったよ。急いで取り上げて隠したから良かったけど、飲んでたら流石に体には良くないわよね…」
美鈴はストレスが溜まったときに一気に飲むタイプ。おそらく、職場で上司と揉めたのだろう。いつものこと過ぎて何とも思わないけど。
「せっかくだから紗良も飲もうよ~」
「分かった分かった!手を洗ってからね。」
今日のお酒は、例のウォッカのサイダー割りにしよう。
(美鈴にバレないように棚から取り出さないと…)
♢ ♢ ♢
今日は給料日。いつもの如く給料の手取りは少ない。
(給料全体で考えたらもっと多いはずなのに。)
でも、給料をもらえるだけでとてもありがたい。もらえなくなったら上司の耳元で思い切り叫んでやろうではないか。なーんてね。
「たっだいまー!」
「あ、紗良…」
「…?」
珍しく浮かない顔をしている麗華。こんな顔は多分だけど出会って初めて見た顔だと思う。
「何かあったの?」
「実はね、今日の昼前に美鈴が帰って来たの。」
「え…?そんなに早く帰って来ることなんて…」
「もちろんない。だから、美鈴に聞いてみたの。」
どうしよう…嫌な予感しかしない…
「う、うん…」
「急に会社側からリストラされたって…」
「——え?」
「私も、美鈴から話を聞いたりネットで調べたりしてみたけど、明らかに不当なリストラなの。会社側からの圧力に負けた美鈴が、違法性に気付かずにリストラを受け入れてしまったらしい。」
リストラと聞いた瞬間、頭が凍り付いた。まさか…まさか自分の身近な人がそんなことになってしまうなんて、思いもしなかった…
「それで、美鈴は…?」
「部屋にこもったまま。缶チューハイ三本くらい持って行ってたかな?度数強いやつは前から隠していたから持って行ってはないはず…」
どうしよう…下手に美鈴の部屋に入っちゃうのも流石によくないよね…?でも、話を聞かない限り何も分からないし…けど…
「少し話はしてみたの。そしたらね…」
「——部長に言われた…?」
「うん。それで、社長にも話を聞きたいって美鈴も言ってみたらしいけど、思いっ切り怒鳴られて、荷物を整頓して帰れだとか、二度と顔を見せるなだとか。しかもみんながいない間だったらしくて、誰にも助けを求められなかったらしい。」
悪質極まりない。こんなことをする人間が世の中にいるとは…本当に信じたくない。
「会社に殴り込みは?」
「待って紗良、落ち着いて。ここは法的に対処しよう。これは私たちだけでどうにかなる話じゃない。」
「だよね。でも、どうすれば…」
「大丈夫。例の上司の名前はもうマーク済み。」
流石は麗華。仕事が早い。
「まずは法対処について調べて、弁護士でも探そう。もちろん、美鈴の意見が第一だけどね。」
「うん。私たちの大切な人に手を出したことを後悔させてやろう!」
「そうね!」
それから数日間は法対処のことばかり調べていた。私は仕事を休み、麗華もイラストなどの納期を先延ばしにしてもらったらしい。
(美鈴がウェディングプランナーとして、もう一度輝いてほしい。)
美鈴がウェディングプランナーとなって働き始めた当初は、いつも明るい笑顔だった。
『聞いて聞いて!私、初めて一人でお仕事を任されたの。凄いでしょ!』
『最近ね、私の知名度が上がってるらしいの!嬉しいな~』
でも、それが気に食わないからか、上司とは段々と不仲になっていったらしい。
『あいつ、ホントにウザいんだけど。何なの?私は別に調子になんか乗ってないのに。』
『そんなに稼げない癖して、何で私に当たり散らしてくるわけ?マジで意味分かんないだけど。』
純粋に努力している人の夢が、何で努力しない人に奪われていくのか。信じられない。大人になってもそんな性格の人間だなんて、正直どうかと思う。
(何だか、大人げないって言うかね…)
それでも、何としてでも、美鈴の笑顔を取り戻す。
♢ ♢ ♢
(あ…さ?)
連日のように徹夜で法対応の件を考えていたら、どうやら寝落ちしてしまったらしい。
(でも、昨日は美鈴とも少し話ができたし…)
相当暗い表情だった。元気もなくなっていたみたいだったけど、食欲は戻ったみたいだった。美鈴の大好きなオムライスを作って美鈴に渡すと、ありがとうとだけ言って部屋に戻った。
(食器も戻ってきているから、全部食べられたみたい。)
ただ、ここで気になることが一つ。
(麗華?いないんだけど…)
私は麗華を探しに部屋から出ようとした。すると…
「紗良⁈美鈴を見なかった⁈」
「え?昨日は見たけど、今日は見てないよ…?」
「どうしよう…美鈴がいないの…部屋にもお風呂にもいないし、玄関を見に行ったら靴も無くなって…」
「え⁈」
(もしかして、何かあったのかな…)
「スマホに連絡を入れてみたけど既読もつかないし、電話をしても繋がらないの…」
どうしよう…でも、こういう時こそ落ち着いて…
「麗華、大げさかもしれないけど、警察に相談しよう。今からなら外にいるかもしれないし。」
「——そうね。とりあえず、外に出られる服に着替えましょう。今日は寒いから、コートも羽織ってね。」
「うん。」
間もなく用意を終わらせた私たちは、急いで家を飛び出した。
「紗良、最寄りの警察署は⁈交番でもいいわ!」
「あそこの交差点を左に少し向かったら交番がある!とりあえず、そこを目指そう!」
木枯らしが吹く晩秋の朝焼け。こんな中、美鈴はどこへ行ってしまったのだろう…
「あっ!」
「危ないっ!」
「ごめん、普段から外に出ないから、足がもつれちゃった…」
「いいよ!麗華、怪我はない?」
「うん。急ごう!」
交番の前に付いたときは、私も麗華も、もうへとへとだった。
「あそこに…警察官さん…が…」
「麗華、ゆっくり来て。私が先に事情を話すよ。」
「うん…ありが…と…」
交番の中に入ると、30代ほどの女性警察官と、20代ほどの男性の警察官がいた。
「おはようございます。本日はどうされましたか?」
「私と…私たちとハウスシェアをしている友達がいなくなっていたんです!」
私がそう説明している間に、麗華も交番に入ってきた。
「私と、今入ってきた彼女と、この写真の茶髪の彼女と三人で生活していて…」
焦る気持ちを押さえつつ、ゆっくりと説明する。美鈴は、過去に撮った写真を使って説明した。
「——分かりました。一度、こちらのソファーにおかけください。詳しくお話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「…はい。」
それから私たちは、美鈴の名前、特徴、私たちの名前、今回の家出の原因の心当たりについて洗いざらい話した。
「——そうでしたか。確かにお二人のおっしゃる通り、その解雇は違法性が疑われますし、今回の行方不明の原因にもなりそうですね…」
これからどうしたらいいのかな…もし…もし美鈴に何かあったら…
「紗良…あんた…」
「え?」
目から…水が…
「確かに、心配ですよね。でも、私たちが捜査をして必ず探し出します。私たちに任せてください。」
♢ ♢ ♢
あれからもう13時間。警察からの連絡は一向になく、美鈴からの連絡ももちろんない。
「——麗華…」
「何?」
「私たち、美鈴に負担をかけちゃったかな…?」
「——かもね…」
すごく申し訳ないことをしてしまった。美鈴の意見も聞かずに、勝手に話を始めてしまって…
(美鈴は、どうしたかったのかな…)
頭の中で、まとまらない考えがずっとぐちゃぐちゃしている。今は何も考えられない。いや、考えたくない。これ以上は考えたくない。
『ピリリリリッ』
私のスマホだ…着信元は…警察!
「はい、北川です。」
『北川紗良さんですね。篠谷美鈴さん、見つかりましたよ。』
「本当ですか…良かった…」
(美鈴が…見つかった…)
私は電話をしながら、麗華に筆談で美鈴が見つかったことを報告した。
♢ ♢ ♢
「「美鈴っ!」」
「紗良…麗華…」
「良かったよお…美鈴が戻ってきてくれたあ…」
「うん…ごめんね…」
「あんたは謝るな!無事だっただけ十分だよ…」
美鈴と感動の再開。みんなは涙でボロボロ。
「感動の再開のところ申し訳ないけれど…篠谷さんが見つかったのは…」
「「隣町の橋の上⁈」」
警察官さんから聞いてびっくり。涙が一気に引っ込んだ。
「あはは…一応徒歩で…」
「「「徒歩⁈」」」
今度は警察官さんもびっくり。流石にあの距離で徒歩はきついのでは…
「その…みんなに迷惑をかけちゃったし、会社でもほぼ人権無視で、もう自分のことなんてどうでもよくなって…その、なんて言うのかな。うん、いっそのこと消えたくなった。」
美鈴の正直な言葉に、胸がキュッとしまった。
「美鈴…」
「へへ…もうこんなこと言わないって、昔、約束したのにね。」
気づけば、美鈴に抱き着いていた。
「紗良…?」
「美鈴…今回は本当にごめんね。でも、もう消えたいだなんて二度と思わないで。」
「…うん。」
「もう一回、美鈴の進みたい道を探そう?きっと何とかなる。神様は乗り越えられる試練しか与えないよ?」
「うん。ありがとう!」
映画の感動のワンシーンみたい。
「それじゃ、帰りましょう。お世話になりました。」
「「お世話になりました。」」
麗華の声に続き、私たちも頭を下げた。
♢ ♢ ♢
「じゃあ、行ってきまーす!」
あれから数ヶ月、もう一度、美鈴はウェディングプランナーとして働くことにした。もちろん、あの会社ではない、別のところ。
「美鈴、元気になってよかったね。」
「そうね。あの会社から慰謝料も貰えたし。」
その後、私たちは例の件で訴訟を起こし、見事勝訴。慰謝料など、全て貰うことができた。
「紗良も、そろそろ仕事でしょ?」
「あっ!遅れちゃう!」
「急げ急げー!」
♢ ♢ ♢
「では、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
仕事終わりの一杯。やっぱり美味しい。
「そういえばね、今度の式は私が担当することになったの!」
「おー。初の一人仕事か。」
「そうなの!うふふ、すっごく楽しみ!」
「その式かな…私、行くよ?先輩が結婚したって言ってて、式の場所を聞いてみたら美鈴のところだったから。」
「えーっ⁈紗良、来ちゃうの?」
「行くよ~」
今日も大好きな人と、大好きなお酒を飲み、楽しく過ごす。こんな毎日が、ずっと続いてくれますように!