「……愛されてるね」
 そして思わず言葉が零れた。鬼のようでもこんな鬼なら一緒に暮らしてもいい気がしてくる。
「どこがだよ」
 私のつぶやきに奏翔は不満そうにぼやいている。きっと一度も名前を呼ばないくせにと不服に思っているのであろう。それでもこれはどう見ても愛されてるに違いない。
「無理しなくていいからな。残った分は明日の朝食にするから。あ、このちゃぶ台4人用だけどいける?」
 泉平くんは座布団の上に座りながら言った。それに奏翔が平然と「俺が詰めればいい話だろ」と答えている。なんだか気を遣わせているようで申し訳ない。
「ごめんね」
 ペコリと頭を下げながら奏翔の隣に座ると「いや、そこはありがとうだろ」と泉平くんがツッコミを入れてきた。確かに言われてみればそうである。 
「あ、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
 しどろもどろに言い直すと奏翔はクスリと笑い、返事をしてくれた。
「さあさあ食べましょ」
「ええ、そうね」
 沙湊さんと和樂さんも座布団に座り、5人一緒にいただきますと両手を合わせた。
 フルーティな甘さと爽やかな酸味が特徴の酢豚は、喉を滑るように通り、その甘酸っぱさをシンプルなチャーハンが見事に和らげながらも、ソースの風味を引き立てた。ピリ辛の麻婆豆腐は、酢豚とは対照的な味わいだが、その辛さがアクセントとなり、肉と豆腐の柔らかい食感が酢豚のしっかりした歯ごたえと絶妙に調和している。卵スープのまろやかな風味もまた、酢豚の濃厚さを和らげる効果があり、箸休めにぴったりだ。
 さっぱりとしたチンゲンサイとほうれん草の炒め物は、全体のバランスを整え、春巻きは噛むたびに心地よいカリッとした音が響き、食事に楽しさを加えている。