その下にはオープニング曲から始まり、前のコンクールで演奏した曲や流行りのメドレー、三羽先輩と泉平くんの二重奏、未弦と弓彩のデュエット、さらには奏翔と私が弾く予定の曲はもちろん、藤井先生のソロ曲までもリストアップされていた。
 加えて、アンコール用の曲まで用意されていて、全体は2部構成に分かれ、なんと曲数は全部で20曲もある。
「部員で別れて演奏するやつはほとんど楽采が作ったやつなんだぜ」
 ピアノの椅子に腰掛け、こちらを向き箇条書きに羅列している曲名を「これとこれと……」と指で次々に差しながら奏翔が自慢げに教えてくれた。それだけを数えてみても7曲もある。その多さに彼がいかに作曲が好きなのかが伝わってくる。
 実際、私と一緒に曲を作っている時も、私がテンパっている間に、ニ村くんは好きな作曲家の話をしながら、するすると音符を並べていくのを何度も見た。将来、彼はきっと作曲家として有望な人物になるだろう。
「あとテーマは三羽先輩が決めたんだ。あいつ、最初に楓音と会った時からもうすでに入部することを想定してたらしい。難聴の人がふたりいるってことで、このテーマにしたんだって」
 重ねるように奏翔は言った。その言葉を聞いて、私はハッする。確かに双見先輩は初対面の時から私がまだ見学すらしていないのに、まるで当然のように無理矢理入部させようとしていた。あの時は少し戸惑ったけれど、今こうして振り返ると、彼女の行動はすべて計算されていたのだろう。
 へー、と返す私に奏翔は隣座ってと椅子の左側をたたいて促した。言われなくてもそうするんだけど、と思いながらも腰掛ける。この近距離になるのは今回で3回目。けれど、慣れたつもりでもやっぱり胸が早鐘を打ち始める。心臓の鼓動が徐々に高鳴り、まるで私の不安や期待を全部見透かされているようで、落ち着けない。
「さっきは弾く曲たくさんあるって言ったんだけどさ……」
 奏翔は一瞬言葉を詰まらせ、私の方をちらりと見た。彼の目にはどこか迷いが感じられたが、すぐに作り笑いを浮かべながら続けた。