「すっかりカップルっぽくなってんな。うらやましー」
「いや、あたしらもカップルじゃん。ほら、いくよ。二重奏の練習」
 眉を少し伏せて物欲しそうに泉平くんが呟いた。そこへトランペットが入っているであろう黒いケースを手に持ち、引き戸に手をかけた三羽先輩がツッコミを入れ練習へと促す。
「おう」
 泉平くんは返事をし、急いでクラリネットが入っているであろう黒いケースを持ち、三羽先輩の後を追いかけた。
「お姉ちゃん、バイオリンの弦切れたー」
 4人となった音楽室の中、弓彩がパタパタと未弦の方へ駆け寄る。いきなりのことに「へ、今!?」と彼女は目を丸くした。
「冗談だよー」
「もう、一瞬焦ったじゃん」
 弓彩がひっかかったとクスクス笑い、未弦は肩をすくめ、どこか拍子抜けした表情を見せた。弓彩の手に持つバイオリンは、確かに弦が切れていない。明日が本番だというのにこんな風に人を驚かせるなんて、人騒がせなやつだなと思う。
 でも、その点では私も同じ。飛び入りで出演することが決まったのだから、緊張と期待が入り混じっている。
「さて、先生もやろうかしら」
 そこへ藤井が引き戸を開けて入ってくる。その手にはなぜかフルートを持っていた。
「え、先生指揮者やるんじゃなかったんですか?」
「指揮者もやるけど、2曲だけフルートもやるのよ。あれでも一応ここの卒業生でプロなんだから」
 首を傾げて問いかける弓彩にその様子を見た未弦がやや驚いたように微笑みながらも説明した。
「これ、当日のプレイリストな」
 それを尻目にさっそくピアノを弾こうとすると、奏翔が紙を渡してきた。1番上には【Sound】と大きく書かれており、どうやら今回のテーマらしい。