「何、無茶なこと言ってんの!?」
 その日の放課後。未弦に定期演奏会に出ると言うともちろん面食われた。私と奏翔は一度それぞれの家へ戻り、制服に着替えてからまた手を繋いで登校したので私服ではない。それに学校へ着いたのはついさっきだったので練習は全然できていない。してるにしても無謀なことに変わりはないのだ。
「譜久原くんがソロで弾く予定だった曲の追加はよし。飛び入り出演だけど今回は定期演奏会だからよし。でも耳治ってからって言ってなかったけ?」
 未弦はさらに詰め寄ってくる。
 確かにその通りだ。それにぴったりな楽器がある、とフルートを勧められたりもしたっけ。それは終わってから考えよう。
「私が一緒に弾くって決めたの。だからやるの」
「いいけどムリはしないでよね。中止よりは全然ましだし」
 まくしたてるように答えると未弦はひとつため息をつき、バイオリンを手に取った。
「じゃ、これ書いて」
 そこへ三羽先輩が乗り出してきた。手には入部届がある。私はそれをさくっと書いて返した。これさえ書いておけば出演してもよいとのことらしい。
「曲多いから容赦しねえからな」
 泉平くんはニヤリと口角を上げている。またスパルタにズバズバと指摘される羽目になりそうだ。悪い方向へといく思考にやる気がそがれて気分が落ち込みそうになる。
「楽采は図書室だろ、練習場所。それに俺が一緒に弾くんだから俺が教える」
 怖気づいていると、奏翔が私を庇うように前に出た。
「兄貴のケチ。練習サボってたのに楽譜覚えてんのか?」
「ああ。部屋こもってたけど見たら思い出せるし体が覚えてるから弾けるよ。まだつらいけど楓音が隣にいるし気力は徐々に取り戻すよ」
 確認するように泉平くんが問いかけると、奏翔は大丈夫とまくしたてた。初心者のはずなのに頼りにされているようでなんだか気恥ずかしい。