確かに無謀だ。ついさっき奏翔と弾いた曲を明日弾くかどうかは決まってないし、そもそも奏翔と話をしたくて泉平くんと作ったやつだし、未弦達も弾いたことがないだろう。
 昨日の放課後も私がピアノを弾いて後にいた泉平くんがズバズバと指摘していた時には未弦と弓彩と三羽先輩は一緒に本番のリハーサルしていただけだったし、メロディーなんて尻目にしか聞いていないだろう。なら弾けるわけがない。
 でも……。
「間違えたっていいじゃん。機械じゃないんだから」
 私は奏翔から前に教えてもらったフジコ·ヘミングの名言をふと思い出し、それを利用して抗議してみせる。
「難聴だろうと初心者だろうと、大事なのは譜面通りに弾くことじゃない。間違ってもいいから楽しむことが大切だって、奏翔が言ったんだから。だから、隣で弾かせてよ。返事は?」
 重ねるように抗議すると、奏翔はそうだな、と思い直したようにニコリと笑った。それからまた口を開く。
「隣にいてほしい。弾いててほしい」
 奏翔は真剣な眼差しで懇願してきた。
「今から楽采に連絡すれば、この曲は明日弾ける。俺がソロで弾く予定だった曲が3つあるんだけどそこにこの曲を足せばいい。今から学校戻って、放課後はみんなと合わせよう。あと俺の家にピアノもあるし、夜は泊まれ」
 それからポケットからスマホを取り出し、操作しながら次々と今後の予定を告げた。おそらくニ村くんにメッセージを入れるつもりなのだろう。
 それより……。
「ちょっ、待って!今、泊まれって言った?」 
 耳を疑い、慌てて奏翔の顔を覗き込む。誰かの家に泊まるなんて4年ぶりだ。未弦の家にしか泊まったことしかない。しかも、異性の家だなんて急すぎて頭がついていかない。