身を切られる思いになりながらも片方の手を離し未だに離さずにいたスマホを操作して文字を打って見せる。
【私だって奏翔に迷惑かけてた。これからも迷惑をかける。この過敏な耳が治る時まで。いや、その先もきっと迷惑をかけてしまうことがある。必ず。だからお互い様なんだよ、私達】
 そのメッセージが見えたのか、奏翔はしゃくり上げながらも顔を上げた。それに優しく笑みを浮かべながら口を開く。
「奏翔が私を助けてくれなかったら、私は今も真っ暗な闇の中で泣き続けていたと思う。未弦の本音も、父の本音も、母も、目を覚ますことなく、生き地獄をさまよっていた。正直、どうなっていたかは分からない。でも、奏翔は私の世界に一筋の光を差し込んでくれた。私の命の恩人なの。その優しさに私は救われた。泉平くんだって、奏翔がいなかったら今頃どうなっていたか……彼も命の恩人だから、弟として隣にいるって言ってたの」
 指では文字を打ちながらも私は伝えた。
 口がうまく読めなかったのか、奏翔は私のスマホをチラリと見た。そこに続けるようにまた文字を打つ。
【好きだよ。奏翔が隣にいないと、これから先、笑って生きていけないと思う。だから、死なないで。奏翔は生まれつき耳が聞こえないだけで、何も悪くない。死ぬべきじゃないし、殺されるべきでもない。だから、奏翔は生きてていいんだよ。それに、私が一緒に生きたいの。隣にいたいから、隣にいさせて】
 殺したりなんて絶対しない。だって奏翔は私の一筋の希望の光なんだから。私が奏翔の隣で生きて笑っていけたら母さんも自分を責めることはなくなる。それは一石二鳥にもなる。いや、きっとそれ以上に私と奏翔の人生は華やかになるはずだ。
 奏翔は目を見開き、涙をまたポロリと零した。それから私の手から逃れようと腕をぶんぶんと振りながら口を開いた。