彼が私の母さんを元の体へ戻してくれたなんて、十唱を天国へ連れて行ってくれたなんて。
 本当に殺されるべきは奏翔自身だと思い詰め、自分が悪いんだと責めていたなんて。
 不慮の事態でしかなく、あまりの悲しさに胸が張り裂け、涙がぽろぽろと溢れた。
「――うわぁ……!!」
 私の行動にたがが外れたのか、奏翔は子どものように声を上げ、私の体にすがるように泣きついた。その勢いの反動で防音イヤーマフが耳からずれ、緑が生い茂る草原へと落ちてしまった。
 そのせいで、嗚咽混じりの呻き声が耳元に直接響き、私はその苦痛に耐えるように歯を食いしばった。防音イヤーマフを拾うこともできず、ただ無意識に彼の背中に回した手を動かすこともできなかった。
「神様って、なんて卑怯なんだよ……俺の願いは、もう届かないのか? もう死にたい……生きたくなんかないんだよ……あと何回、こんな思いを繰り返せばいいんだ。こんな人生、くそったれだ……!!」
「……奏翔」
 私の涙腺も彼の涙腺も崩壊して、宝石のようにキラリと光る大粒の涙が次々と頰を伝っていく。そして互いの服へと滲んでいった。
 頭の中で点と点が次々と線で結ばれていく。五線譜には、適する音符が次々に書き並べられ、そうしてできた曲は、奏翔が私にしたことはとても心を揺さぶる。
 実際に曲を作ったのは泉平くんと私だけれど、奏翔自身もクラシックのソナタやカノン、さらには泉平くんが作った曲を即興でメドレーにし、アレンジしてまで私の心に届けてくれた。
 あの頭の痛みがすっと癒えていくような穏やかで繊細なメロディーは、今思えば耳が聴こえていないとは思わせないほどの心地よさであった。
 彼は単なる絶対音感を持っているだけの人ではなく、まぎれもないひとりのプロのピアニストだ。