それはつまり、楓音のことを助けようとしていたことに変わりはなく、助け終えてしまえばまた音のない世界に引き戻されてしまう。その残酷な運命が訪れてほしくないと涙ながらにすがるようにまた俺のせいだからごめんなと謝るようにきつく抱きしめたり、そっとキスをした。
 でも助けなければ楓音の母さんが元の体に戻ることもできず、楓音の弟になる予定だった十唱も天国にはいけない。それに楓音のつらい顔なんて見たくない。笑っていてほしい。なら楓音の背中を押して優しく手を握り支えることしかできなかった。
 それに楓音を助けているうちに自分の中の自己嫌悪が薄れている感覚が確実にあった。誰かを助けたかったんだ。誰かの役に立ちたかったんだ。そんな自分に気づけた。
 途方もない恐怖に襲われながらも、楓音の隣でずっと声を聞いていたいという願いが強くありそれが届いてほしかった。
 しかし虚しいことに、その願いは届かなかった。楓音の声が聞こえなくなった瞬間、どこかで人生が終わる鐘が鳴り響いたようで、生きた心地がしなかった。

◆ 

「俺はもう……この世界を生きていける気がしないんだ。だって、何の音も聞こえない。楓音の声だって、あんなに聞こえてたはずなのに、今は何も聞こえないんだ。今はピアノに触れることすらつらい……指も動かない。楽しくなんてないんだ、ただ、つらいんだよ……」
 涙を滲ませながらも、奏翔は重たい言葉ばかりを呟くように零し打ち明けた。そんな彼の背中へと優しく包むように手を回した。ただ、こうせずにはいられなかったのだ。
 こんな残酷な運命になることを知っていながら、奏翔は私を助けようとしてくれていたなんて。