信じられなくて不覚にも声が震える。耳を見ても補聴器のひとつもつけていなかったから。奏翔は静かに応答するように制服のポケットから何かを取り出して耳につけた。それは確かにイヤホンのような形をした補聴器だった。
「隠してて……ごめん。でも信じられないかもしれないけど、確かに楓音の声だけが聞こえていた。それに俺はすがりついてた。依存してた。もっと近くで聞きたいって。その気持ちを知られたくなくて……弱い自分を知られたくなくて補聴器を隠して近づいてた。い、今は……全然聞こえないんだけどな」


 
 事の始まりはただ願っていたことだった。空に虹が出ようと流れ星が出ようと、ずっと。一瞬でもいいから誰かひとりのの声でもいいから聞きたい、と。
 耳が聞こえていない。
 そうわかったのは母さんいわく、1歳の頃。
 母さんが後から声を何度かけても俺が気づかないことに母さんは段々と違和感を感じ、信じたくないと怖がりながらも病院へ検査を受けに行った。
 その当時はもちろん、物心すらついていない。だから耳が聞こえてないことすらわからなかった。でも成長していくうち、気づいていった。
 普通な子と同じように通わされた幼稚園。当たり前だけどみんな口を動かして無邪気に会話していた。
 でも俺にはそのすべてが何を言っているのかわからなくて、違う世界にひとり置いていかれているような孤独を感じた。
 母さんからは手話や筆談、発声練習に厳しく付き合わされ、それがきちんとできるまで食事はおあずけになることが毎日のようにあった。