奏翔に話かけるときはまず肩を優しくたたけ。
 泉平くんからはなぜかそんなアドバイスをもらった。よくわからないけれど、それは奏翔が教えてくれるだろう、とその通りにすることにした。
「お、お待たせ。き、今日という今日は……逃さないから」
 肩を優しくたたき、そのまま無理矢理ではあるがぎゅっと彼の腕を掴む。 
 その途端、まさか自分からこんなことをするなんて、と驚き同時に恥ずかしさが込み上げた。つい頰が紅潮して、でも今更離したら奏翔が逃げてしまうかもしれないから落ち着け、と言い聞かせる。
 その間奏翔はビクっと体を動かしたものの、姿勢のひとつも変わらず埋めている顔も上げてくれない。けれど口は開いてくれた。
「前のデート時約束してた見晴らしのある丘。あそこなら話せるかも」
 そう呟くように零した奏翔は掴まれてない方の腕を使い、ポケットからスマホを取り出した。それから頑なにこちらを見ようともせずさくさく操作し、スマホだけをこちらに見せてくれた。地図アプリで現在地とその場所までの経路が示されている。
 道は入り組んでいて迷いそうだが、30分も歩けばつけそうなところだ。
「わかった。立てる?」
 私はそう問いかけながらゆっくりと奏翔の腕を引いた。
 すると、彼はゆっくりと立ち上がり、帽子を深く被り直し、俯いたまま歩き出した。奏翔の格好は前回と同じ様な感じで黒のカーディガンに黒のゆったりしたズボン。でもYシャツは白ではなくネズミ色であった。前回の私と同じくらい暗そうな格好をしていた。