「知りたい。知ってこれからちゃんと隣にいたい。だから手伝わせて」
 泉平くんの隣の席に座りながら私はスカートのポケットからポケットティッシュを取り出し、それを差し出しながら懇願した。
 よくわからないけどもしかしたら、奏翔は今も影で泣いているのかもしれない。私以上に死にたいとか消えたいとか思って今まで生きていたのかもしれない。私と一緒に泣いていたのは彼なりの優しさではなく、そのつらさと孤独を無言のままに分け合おうとしていたのかもしれない。
 そんな直感が胸の奥でひしひしと響いていた。
「そうこなくちゃな。音階が色々あるんだけどレミソラドとかレファソラドとかそれを混じえて変化させたりして作っていくんだ」
 私の行動に泉平くんは顔を上げ、ティッシュを受け取り涙を拭ってからニヤリと口角を上げた。
それから曲の作り方を教えてくれる。それはよくわからなかったが、彼が作る隣で見様見真似に音符を五線譜へと書いていった。
「正直、今やってるのは兄貴への嫌がらせなんじゃないかって時々思う」
 音符を書きながら二村くんは今まで見たこともない生き生きとした姿で呟いた。まるで水を得た魚のようだ。私はその言葉の意味も知りたかったが、音符を書くことの方に集中した。
「それでも兄貴は、僕に笑っていてほしいから、曲を作ってくれって頼んでくるんだ。そして、その曲を楽しそうに弾いてくれる。そんな兄貴にも、笑っていてほしい。兄貴がいなかったら僕は今頃どうなっていたかわからない。命の恩人なんだ。だから、僕は弟としてあいつの隣にいる。兄貴からはボディーガードかよってよく言われるけどな。で、楓音さんには、カノジョとして兄貴の隣にいてほしいんだ」
 泉平くんは重ねるように遠くを見るように目を細めて意味ありげに言ってきた。
 そういえば奏翔は私にも笑っていてほしいと言ってくれたっけ。一緒に演奏できることを喜んでくれていたっけ。