現時点で知っているのは、プロのピアニストのような腕前とわがままでありながらもまっすぐで優しい性格の持ち主なこと。そして私と同じ自分を卑下しやすいところ。他にも出そうと思えば色々と出てくる。薄っぺらい関係の割には膨大な量だ。しかし、いくら考えても言葉の意味がわからない。
「楓音さんはさ、あいつの隣にいられてる?」
 困り果てていると、泉平くんは直球に問いかけてきた。それからまた口を開く。
「いないよな?楓音さんは、あいつの隣にいるようで、実は全然いない。関わってる人の中じゃ、一番あいつから遠い存在だ。今のままじゃ、あいつのカノジョには務まらないよ。だから、これ以上僕の親友に近づかないでくれ」
 泉平くんは睨むような眼差しで冷徹な言葉を投げかけてきた。その途端、冷水を浴びせられたような気分になる。奏翔に拒絶されショックを受けたところからさらに追い討ちをかけられたみたいだ。それは鋭利な弓矢となり、私の心を次々と傷つけていく。
「悪いな、役に立てなくて。じゃ僕授業あるから」
 そう棒読みに言い捨て、泉平くんは何事もなかったかのように階段を降りていった。すでに彼のクラスの音楽の授業は終わっていたらしく、近くからは複数の足音や話し声が聞こえる。私はまたそれを無視するように悲しみに項垂れた。

「ひどい言われようね」
 その日の昼休み。図書室で昼食を食べていると、未弦に浮かない顔してるね、と迫られた。そして事情を話すと、怒ったように口を尖らせてきたのだ。
 奏翔はすでに図書室から出ていき、俯いたまま私の顔を見ることもなく目の前を静かに通り過ぎていった。まるで私は幽霊か何かにでもなったのか、存在すら彼には見えていないような気がした。その行動がまた拒絶されたみたいに感じ、私の心は修復不可能の一歩手前まで傷ついていた。