スマホをサクサクと操作しながら泉平くんは言った。おそらく奏翔にメッセージを送っているのだろう。普通に引き戸をノックして声をかければいいのに、と私は疑問になったが、彼には彼なりのやり方があるのかもしれないとも思い、何も言わなかった。
 私は引き戸にもたれかかっていたのでその場から立ち上がり、泉平くんを通すように端へ避ける。それを確認した彼も立ち上がり、引き戸を開けて入っていった。が、すぐに閉められ、その音は私への気遣いなのかゆっくりだった。
 ひとりにしてくれと奏翔からはメッセージで伝えられていたから大丈夫だろうかとはらはらしながらも、スマホの時計を確認する。すると、始業のチャイムから既に3時間が経過していた。時間が過ぎればそれだけ心の持ち用も少しは変わるのかもしれないと割り切り、泉平くんの戻りを待つ。
 ひそひそと話しているのか、声が少しもこちらに漏れてくることはない。聞き耳を立ててみようかとも思ったが、それはデリカシーのない行動なのでやめておいた。
「お待たせ」
 しばらくして、泉平くんは引き戸を静かに閉めながら言葉を口にした。その顔はどこか辛そうに曇り、俯いていた。
 まだ彼との関係は全然親しくもないので、安易に聞くのはいけないだろうと黙り込む。
「どう言ったらいいかな」
 すると、彼は顔を上げ真顔に戻りながらも考えあぐねるように顎にこぶしを立てた。それからまた口を開く。
「楓音さんは、奏翔のことを知ってるようで、知らないんだ」
「へ……」
 その言葉に息が止まりそうだった。奏翔が何を言っていたかではなく、自分のことを言われたからだ。さっきは絶対に私には非はないとか言ってたのに、しらばくれられたかのようだった。
 私が奏翔と関わったのは1週間にも満たない。だからまだ知らないことがあっても当然ではある。