質問のすべてを言ってないのに、それを察したのか、泉平くんは理由を述べた。確かに納得のいく理由だ。
「そっか」
「もし僕でよければ、話を聞かせてくれないか?たぶん、奏翔のことだろ?」
 泉平くんは廊下に座り込み、私と目線を合わせながら言った。その口調はやや柔らかく、優しげであった。不器用な人だなと思いつつ、私も本音を話しにくい人だからお互い様だと割り切る。
 しかし、私が今もたれかかっている引き戸の向こうは図書室であり、奏翔が閉じこもっている。声さえ潜めればいいかもしれないが、下手したら奏翔に聞こえてしまうだろう。その可能性を考えると、言葉を選ばずにはいられなかった。
「場所変えよう。ここに奏翔いるから」
 私は引き戸を指差しながら、立ち上がった。が、泉平くんは「気にしなくていいから」と首を横に振りながら制す。
「え、でも……」 
「いいからいいから」 
 呟くようにこぼすと彼はデリカシーがないのか、大丈夫だからと少し安心させるように制してきた。
「いやいや、ダメでしょ」
「声潜めればいいだろ」
「それはそうだけど……」
 どうやらいくら場所を変えようとしても埒が明かないようだ。泉平くんにはデリカシーのかけらすらないのかもしれない。私は諦めてその場に座り込み、聞こえてないか不安になりながらも、細心の注意を払うように小さい声で事情を説明した。
「なるほどな。安心しろ。楓音さんには、絶対に何も非はないから」
 すると、泉平くんは納得したように言い、私の背中をトントンと優しく叩いた。それからズボンのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。彼は寒がりなのか否か、私と同じ冬服だ。
「今の話じゃ分からないところがあるから、奏翔と話してくる。楓音さんは、ここにいてくれ」