私の心を読んだかのように、泉平くんはまくしたてるような言葉で弁明した。そういえば、初対面の時も彼は本を読んでいて、それを見た三羽先輩がまたサボってると悪態をついていたっけ。 
 そして、奏翔が私のためにピアノを弾いてくれた時も、泉平くんが作った曲が含まれていた。あの時は、ソナタやカノンもメドレーの中に取り入れられてアレンジされていて、私はそっちに気を取られていたな、と今更ながら思い返す。
 それより……。
「授業、いいの?行かなくて」
 さっきチャイムが鳴っていたのだから遅刻なのは明らかだ。それをサボってまで私を気にかけてくれているのは申し訳ない気持ちが湧く。
「行けるわけねぇだろ。お前がこんな風にうずくまってるのを見ちまったらさ。それに奏翔が朝から無断欠席してるし、僕に連絡もよこさない。定期演奏会だってもうすぐだし、授業なんか気にしてる場合じゃねぇんだよ」
 当然だと言いたげな言葉で泉平くんは言った。心配してくれているのはわかるが、さっきからずっと口調が棒読みだ。顔も真顔だし、感情を表に出すのが苦手な人なのかもしれない。
「いつ?定期演奏会」
 とりあえず率直な疑問を単刀直入に問いただす。
「今週の木曜日の祝日。高校入ってから初の定期演奏会だから僕かなり緊張してるんだよね」
 真顔ではあるが、頭を軽くかきながら泉平くんは言った。その途端、あと3日しかないではないかと一緒に演奏する人でもないのに焦りが生まれた。
「で、奏翔のカノジョさんだよな。確か名前……楓音さんだっけ?」
 そんな私を置いて、泉平くんは問いかけてくる。 
 そこで、そもそも名乗っていなかったことを思い出した。なぜ教えてないはずの名前を彼は知っているのだろうか。
「どうして……」
「藤井先生とか奏翔がそう呼んでたから」