* * *

 ハルと歩いた水族館は、とても綺麗だった。

 ガラス張りに色とりどりの魚が泳いでいて、2人で見たイルカショーは楽しくて、翼があるのに飛べないペンギンを見て2人で首を傾げた。

 初めて触るヒトデは不思議な感触がして、海中トンネルで泳いでいるエイに釘付けになって、お土産屋さんではお揃いのストラップを買って……。

 本当に楽しかった。

──いつまでも、この時間が続いて欲しい。ルナもハルも、そう思わずにはいられなかった。

「楽しかったね、ルナ」

 水族館を出て、ハルは笑顔でそう言った。

「ルナと一緒に出かけられて楽しかった。たとえこれが最後になっても良いくらい楽しかった」

「ハル……」

「……分かってるんだ。天界に戻らなきゃいけないことも、ソラと結婚しなくちゃいけないことも、ルナと一緒にいられないことも……」

 ハルは一生懸命に笑顔を作りながら、そう続ける。表情とは裏腹に、声は震えていて、今にも泣き出してしまいそうだった。

「ハル、そんなこと……」

「何も思いつかないんだもの!」

 悲しい気持ちに堪えきれず、ハルは俯きながら怒鳴ってしまった。

「ルナとずっと一緒に居たいけど、何も思いつかなかった……もうすぐ、天界に戻らなきゃいけない……なのに、なのに何も思いつかなかった!」

 ハルはそう言って、はらはらと涙をこぼす。

「ご、ごめんね……楽しい時間にしようって言ったのに……でも、余裕なくて……」

「……ハル」

 ルナは、ハルのことを優しく抱き締めた。

 守りたかった。泣きじゃくるハルに、自分は傍にいることを教えたかった。

「ハル……僕、ハルが好きだよ」

「……うん」

「初めは一目惚れだったけど、弟思いな優しいところとか、明るいところとか、ちょっと無茶しちゃうところとか、太陽みたいな笑顔とか……全部、好きだよ」

「うん……知ってるよ」

「だからさ、一緒にいよう」

── 一緒にいたいなら、何があっても一緒にいればいいんだ。そこに方法なんて必要ない。

幼なじみとして百合と一緒にいようとした景太のように。嫌がらせを受けても景太と一緒にいようとした百合のように。自分に好きな人がいると分かっていても、ずっと友達でいてくれた菫のように。そして、父を裏切っても自分と一緒にいてくれたヨルのように。

みんなのように、僕もハルの傍にいるんだ。

命を懸けて。

「ハル、僕と逃げよう。悪魔と天使の僕達には翼があるよ。どこにだって行ける」

 ルナは穏やかな声で、ハルにそう告げた。

「ルナ……」

「ハルとなら、どこまででも飛べる」

 ルナはハルに優しく微笑んだ。

「……ボクもルナと一緒なら、ずっと遠くまで飛べるよ」

 ハルも涙を流しながら、ぐちゃぐちゃの顔で笑った。

「……行こう。みんなとお別れして、天界のことも捨てて……僕と逃げよう」

「……うん」

 ハルは頷いた。

「……ルナ、大好き」

「うん。僕も大好き」

 2人は抱きしめ合いながら、唇を重ねた。