* * *

 翌日、ハルとデートに行くというルナを見送り、ヨルはベッドに寝そべっていた。

 時刻は午前11時。退屈な土曜日だ。

(昨日は大変だったな……)

 ヨルはぼんやりと昨日のことを思い返す。

 まさか魔界を追放されてしまうとは。スクールの主席の立場も、魔界にいた沢山のファンも全て失った。

(まぁ、殺されなかっただけ良かったか)

 天使に恋をしたという兄も、それを庇った自分も殺されなかった。これは案外都合が良いのかもしれない。

 ルナもヨルも、もう悪魔という立場に縛られることはないのだ。

(父さんの優しさだったのかも……)

 そんなことを考えていたときだった。


 ピンポーン!


 インターフォンが鳴った。

「はーい」


ルナが玄関に出ると、そこには菫がいた。

「菫さん?ルナ兄ならいないけど……」

 ヨルがそう言うと、菫はくすりと笑った。

「ふふ……今日はヨル君に用事があって来たのですわ」

 そう言うと、菫は綺麗にラッピングされたチョコレートをヨルに手渡した。

「これを、ヨル君に」

「これって……」

「感謝の気持ちですわ。ヨル君には沢山慰めてもらいましたから」

 意中の相手からの思いがけない贈り物に、ヨルは目を輝かせた。

「菫さん、ありがとう!大事に食べるよ!」

「ええ。じゃあ、わたくしはこれで……」

「あ、待って!」

 ヨルは立ち去ろうとする菫の腕を掴んだ。

 言わなければいけないことがあった。悪魔という立場が邪魔しなくなった今、菫に伝えたいことがあった。

「あのさ、オレ、菫さんが好きなんだよ」

「……また、わたくしを揶揄ってるの?」

「揶揄ってなんかないよ!」

 そう言うと、ヨルは菫の手にキスをした。

「……オレは本気だよ」

 そう言ってヨルは悪戯っ子の笑顔を浮かべた。それを見た菫は慌てて手を引っ込める。その顔は真っ赤だった。

「……よ、ヨル君たら!」

 怒った顔をする菫に、ヨルは微笑んで言った。

「今はルナ兄が好きでもいいよ。いつか絶対、振り向かせてみせるから」

「……も、もう!」

 菫はヨルに背を向けた。

「チョコ、悪くなる前にちゃんと食べて下さい……それでは!」

 菫はそう言ってアパートから走り去っていった。

「……まぁ、意識して貰えただけでも前進か」

 ヨルはにししと笑い、チョコを口の中に入れた。

「……美味しい」