* * *

(もたもたしてる間に、放課後になっちゃった……)

 百合は帰りのHRが終わった教室で1人、溜息をついた。

 休み時間も景太はひっきりなしに呼び出され、帰ってくる度にチョコが増えていた。

 しかも、見るからにどれも本命。

「こんなの、自信なくすよ……」

 百合は教室で1人うなだれた。

「あれ~?雨宮さん花里君にチョコ渡さないの?」

 突然の声に顔を上げると、いつも嫌がらせをしてくる女子3人組が、わざと大きい声で言った。

「渡すわけないでしょ?だって雨宮さん、家庭科酷いもん!どうせ失敗しちゃったのよ!」

 きゃはは!という笑い声に、百合は顔を赤くして俯いた。

(……最悪)

 居たたまれなくなり、教室を出ようとしたその時、景太に腕を掴まれた。

「百合、俺にチョコ作ってくれたのか?」

「え、あ……一応……」

「くれよ」

「あ……う、うん……」

 百合は恐る恐るチョコを景太に差し出した。

 景太はその場で包みを開け、チョコを取り出すと、パクリと一つ食べた。

「あ、ちょっと……!」

「なんだ、美味いじゃん。すごく美味いよ」

 景太はぱくぱくと袋の中身を食べきってしまった。

「で、でも……形とか不格好だったでしょ?」

「え?別に気にならなかったぞ?」

「で、でも、藤堂さん達と作ったから、1人で作ったわけじゃないし……」

「……じゃ、次に期待だな」

 そう言って景太は百合の頭をぽんぽんと撫でた。

 百合は照れて赤くなったが、すぐ我に返った。

 教室がざわめいているのだ。

「え、あの2人って付き合ってるの……?」

「よく一緒にいるよな……」

「花里、彼女いたのか……?」

 クラスメイト達の声に、百合は自分の顔が青ざめていくのが分かった。

(……どうしよう。私のせいで景太が)

 百合が何も言えずにいると、景太は百合を抱き寄せた。

「ちょ、景太……!?」

「付き合ってるんだ。俺達」

 景太が堂々と言うと、教室中が静まり返った。

「百合は俺の彼女だ。だから、百合を傷つける人は許さない」

 景太は百合を貶した3人組を真っ直ぐ見つめて言った。

 3人組は怒りやら恥ずかしさやらで顔を赤くして百合達を見ていた。

「……行こう」

「えっ!?ちょ、ちょっと……!」

 景太は百合の手を引いて、教室を出ていってしまった。