* * *

 バレンタインデーがやって来た。

 百合は机にチョコを隠し、朝の教室で景太が来るのを待っていた。

(今日に限って寝坊なんて……ほんと、景太らしい)

「おはよー」

 教室のドアが開き、景太の声がした。見ると、両手いっぱいのチョコを持った景太が立っていた。

「今年もすごいなー。花里」

「下駄箱、全部埋まってた……」

「羨ましいぜ、この!」

「あ、押すなよ!落としちゃうだろ」

 その姿を見て、百合は思わず机の中のチョコを鞄の中にしまった。

「百合、おはよー」

「お、おはよう景太……」

「ん?なんか今隠さなかった?」

「隠してないよ!」

「ふーん……そっか」

 自分の席に着いた景太を見て、百合は思わず溜息をついた。

(やっぱり、沢山貰ってる……)

 チョコのラッピングを見ると、どれも可愛らしい物ばかりだ。しかも、メッセージカード付きの物まである。

 どれも百合が作った物より手が込んでいた。

 チャイムが鳴って、先生が入ってくる。

「おはよう。HRはじめるぞー」

(みんな、すごいな……自信なくなっちゃった)

 百合の頭に、いっそのこと自分で食べてしまおうか、という思いが巡った。

(……って、だめだめ!せっかく藤堂さん達と作ったんだから)

 しっかり渡すんだ。と、百合は気持ちを入れ直した。