* * *

「それじゃあ、ようやく花里君と付き合うことになったのですね!」

 菫は目を輝かせながら頬に手を当てる。

「うん。報告遅れてごめんね」

「そんなことありませんわ!おめでとうございます!」

「おめでとう、百合ちゃん」

「ありがとう……」

 2人に祝われ、百合は照れ笑いを浮かべた。

 景太と付き合っても、周りは誰も認めてくれないと思っていた。それだけに、2人の祝福が心から嬉しかった。

「花里君は女の子に人気ですから、何かと大変でしょう?」

「うん……まだたまに嫉妬されて嫌がらせを受けたりするけど、景太の隣に居るときはそんなでもないし、大丈夫」

「そう。何かあったら相談して下さいね」

「ボクも力になるよ」

「ありがとう、2人とも」

 2人の言葉に、百合は微笑んだ。


ピピピピ!


 チョコを固めるためのタイマーが鳴った。

「時間ですわね」

 菫は冷凍庫からチョコを取り出した。

 オーブンシートを剥がすと、固まった生チョコが顔を出した。

「さて、切り分けましょうか」

「あ、あの……」

 百合がおずおずと手を挙げた。

「自分の分だけで良いから、私が切っても良いかな?」

 百合の提案に、菫はにっこりと笑って頷く。

「もちろんですわ!」

 菫は包丁を百合に渡した。

「……よし」

 百合はチョコに包丁を入れた。しかし、曲がってしまい、思うように切れない。

「雨宮さん、包丁は引くんですわよ」

「包丁は、引く……」

 百合は、菫に言われた通りに包丁を引いた。

 すると……少し形は崩れてしまったが、無事切り終えることができた。

「できた!」

 自分の力でチョコレートを形にすることができ、百合は嬉しくて表情を明るくする。

 それを見て、菫も微笑んだ。

「やりましたね、雨宮さん」

「うん……藤堂さん、ありがとう」

「はい!次はボクの番!」

 ハルは元気よく手を上げ、包丁を受け取るとチョコを切り分けた。

「菫も切る?」

「ええ、2人がやったのならわたくしも」

 菫はチョコを綺麗な正方形に切り分けた。

「……あとはココアパウダーで仕上げですわ」

 菫は茶こしとココアパウダーを準備した。

「それ、ボクがやってもいい?」

 ハルが目を輝かせて尋ねた。

「ええ、いいですわよ」

「やった!ありがとう!」

 ハルは茶こしを受け取ると、それを振りながらココアパウダーをまぶしていく。

(ルナのために、美味しくなーれ)

 ハルは心の中で唱えて、微笑んだ。

「……よし、終わり」

「完成ですわ!」

 菫がパチパチと拍手をした。

「さて、ラッピングをいたしましょう!」

 菫はテーブルに置いてあったラッピング道具を持ってきた。

 3人はそれぞれ1つずつ包みを作り、それを手に取って笑い合った。

「バレンタインは明日ですけど……お二人はいつ渡すんですか?」

菫が尋ねる。

「私は明日の帰りまでに渡そうかな」

「ボクは今週末に、デートの時に渡すんだ」

「そうなのですね。頑張って!」

 菫は2人に向かってガッツポーズを作りながら、ニコッと笑った。

「藤堂さんは誰に渡すの?」

 百合が尋ねると、菫は優しくて微笑みながら答えた。

「これはお礼用ですわ」