* * *

 景太はホテルを出て、長い坂道を駆け下りた。

 冬の夜の寒い風が、景太の身に吹き付ける。

 坂道を下りると、大きな十字路に出た。まだ百合の姿は見えない。

(あっ、そうだ。電話……)

 景太はスマホを取り出し、百合に電話をかけた。


 プルルル……。


(頼む、出てくれ……!)

 景太がそう祈っていると、5コール目が聞こえて、ようやく電話を取る音が聞こえた。

『……はい』

「百合!今どこにいるんだ?」

『……花里君には関係ないよ』

「関係ある!だって……」

『幼なじみだから?』

「それは……」

 百合の言葉に、景太は何も言えず口をつぐんでしまった。

『……とにかく、花里君は私の事なんて気にしなくていいから』

「百合……」

 2人の間に沈黙が流れる。

 その時、電話の向こうから微かに波の音が聞こえた。

(海……?)

 百合は海に居るのだろうか。景太は案内標識を確認した。

 1km先に海があることを確認する。

「百合、今、海にいるのか……?」

『だから、花里君には関係ないって』

「すぐ行くから、そこに居てくれ」

『ちょっと……花里君!』

 景太は電話を切り、海のある方に向かって走り出した。

──会いたい。会わなければ。今すぐ百合に会って、話がしたい。知らなかったことも、全部話したい。百合の隣に居たいから。……百合が、大事だから。

 景太はひたすら走った。

 やがて、視界の脇に、海が映る。

 すっかり日が落ちた砂浜は、月明かりで白く光っていた。

 そして、その白い砂浜のその真ん中に、百合は居た。

「百合!」

 景太は百合のもとへ走り、そして、



 百合を抱き締めた。




「ちょ、ちょっと……離して……!」

 突然の出来事にもがく百合を、景太は離さなかった。

 離したら、もう2度と戻ってこない気がしたから。

「……何も知らなくてごめん」

「え……?」

「俺のせいで、百合が辛い思いしてるの、気付かなかった。何も知らない癖に隣に居て欲しいなんて、俺、我が儘だったよな。ほんとにごめん……」

「景太……」

「俺、百合がいないと駄目なんだ」

 景太の真剣な、泣きそうな声に、百合の胸がドキリと高鳴った。

「そんなの……ずるいよ」

 百合の頬に涙が伝う。

「そんなこと言われたら、一緒にいるしかないじゃない……」

「百合……百合は俺といるの、嫌?」

「……嫌じゃない」

 百合は景太の顔を真っ直ぐ見つめた。

「私、景太が好き。ずっと前から好きだった。誰になんて言われても、景太にどんなに振り回されても、嫌いになんてなれなかった……」

 百合はポロポロと涙を流しながら、ずっと抱え込んでいた想いを伝えた。

「避けてて、ごめんね」

 景太は百合の涙を拭った。

「俺も、バカでごめん」

 景太は百合から目を逸らさずに言った。

「俺も、百合が好きだ。ずっと隣にいて欲しい。俺が爺さんになっても、隣に居るのは百合がいい」

「なにそれ、プロポーズみたい」

 百合は涙で濡れた顔いっぱいで、明るく笑った。

「……ほんとだ」

 久しぶりに見た、幼なじみの心からの笑顔を見て、景太もつられて笑みを零した。

「百合、俺の彼女になって」

「……はい」

 2人はもう一度抱き締めあった。