* * *

 いよいよ第1試合が始まる。

 景太はゴール前で深呼吸をした。

 ピッチの1番奥から、仲間達の背中を、そして、ベンチを見る。

 ベンチには監督と百合が座っていた。しかし当然ながら、百合とは目が合わなかった。

(昔のようには戻れない……か)

 あの日、百合に言われた言葉が思い出される。

 小さい頃から、当たり前のように一緒にいた。喧嘩もしたし、口をきかなくなったことも何度かあった。それでも、最後は仲直りして、今までずっと一緒にいたのだ。

 楽しいことも、辛いことも、いつも半分こだった。

 隣に百合が居ることが、当たり前だった。

 その当たり前が、今崩れようとしている。

 百合が自分のもとを離れてしまった理由が、景太には分からなかった。

 隣に百合が居なくなって、なぜこんなに辛いのかも、景太には分からなかった。

(分からないことだらけだ……。俺は、一体どうしたらいいんだろう)


 その時。


「景太!」


 ルナの声が聞こえてハッとする。

 目の前には相手のフォワードが居た。

「決まれ!」

 シュートが、景太のすぐ横を通ってゴールネットに突き刺さる。

「え……?」

 咄嗟のことで、何が起きたか分からなかった。


 ピー!


 ゴールを知らせるホイッスルが鳴り響く。それと同時に、観客席が沸いた。

「花里が……失点した?」

「嘘だろ……」

 動揺するチームメイトを見て、景太はようやく何が起きたか理解した。

(決められた……高校に入って初めて……)

 百合のことで頭がいっぱいで、試合に集中できていなかった。

 味方の士気が、明らかに下がっている。

──どうする?どうすればいい?

 景太が混乱していた、その時。



「まだ1点だ。僕達なら追い越せる!」



 ルナの声が、ピッチの中に響いた。

「そのために練習してきたんだ!」

 ルナの言葉に、チームメイトがぞくぞくと頷き始める。

「ああ……そうだな」

「まだ1点。始まったばかりだ」

「いくぞみんな!」

「おう!」

 チームメイトが自分のポジションに戻っていく。

「景太!」

 ルナは景太を見て頷いた。

「ルナ……」

 景太もそれを見て頷いた。

(集中しろ、俺)

 景太は相手選手を真っ直ぐに見据える。

 試合再開のホイッスルが鳴り響いた。