* * *

 数日後、ハルは病院を訪れていた。

「あ、お姉ちゃん!」

「涼介、元気?」

「うん!」

 ハルは涼介のもとに歩み寄ると、優しく微笑みながらその頭を撫でた。

「ねぇ、最近ルナ来ないね」

 涼介の言うとおり、もう2週間以上ルナの姿は見ていない。

 部活が忙しいのもあるだろうが、やはり……。

『さよなら、ハル』

 ハルの脳裏にあの日のルナがフラッシュバックする。

 何度も連絡しているが、返事は全くなかった。

「ねぇ、ルナ、もう来てくれないの?」

 涼介は寂しそうな声を出した。

「……ボクだって会いたいよ」

 ハルはぽつりと呟く。

──会いたい。ルナに会いたい。会って話をして、何でもないことで笑い合いたい。傍にいたい。でも、どうすれば良いのか分からなかった。

「なら、お姉ちゃんが迎えに行って来てよ!」

 ハルの呟きを聞き逃さなかった涼介が、ハルにせがんだ。

「お姉ちゃんが迎えに行けば、きっとルナは来てくれるよ!」

「涼介……」

 涼介の言葉に、ハルは頷いた。

「……そうだね。ただ待ってても、変わらないもんね」

 ハルは涼介に向かってニッと笑った。

「ルナを迎えに行ってくる」

 ハルはそう言って病室を出た。

 ……病院を出て、角を曲がると、雪が降り始めた。

 商店街を通ると、赤と緑のイルミネーションが飾られている。もうすぐクリスマスだ。

 商店街を抜けて、十字路を左に曲がる。

 すると、ルナの通う翔北高校が見えた。

(見えてきたな)

 校舎から部活がないのであろう生徒達がぞくぞくと出てくる。その邪魔にならないように、ハルは正門の隅に立った。

 少し前に全国大会が近いと言っていたから、ルナは今頃部活だろう。

(少し、待とうかな)

 ハルは雪の降る中、ここで待つことに決めた。

──会ったら何を話そう。

 涼介が寂しがっていること。もうすぐクリスマスだということ。ソラと結婚する気はないということ。

 実は自分は天使だということ。

 そして、それでも一緒に居たいということ。

(話したいこと、沢山あるや)

 ハルはその事実に気がついて、くすりと笑った。

(早く会いたいな)

 ルナが悪魔でも、自分を殺そうとしていても構わなかった。

 そんなことよりも、これまでルナと過ごしてきた時間の方が、ハルにとって大事だったのだ。

(ボクは、ルナが好きなんだ)

 そう思うだけで、胸が温かくなる。

(先のことは分からないけど、今はルナと一緒に居たい)

 ハルは自分の気持ちを確かめ、微笑んだ。