* * *

 百合は教室に教科書を取りに戻っていた。

 教科書を鞄にしまい、教室を出ようとすると、丁度教室に入ってきた派手な女子達と目が合った。

 文化祭の時に百合を陥れようとした3人組だ。

「あれ、雨宮さんじゃーん。おつー」

「……おつかれさま」

 百合は会釈して教室を出ようとした。

 すると、3人組の1人でが百合の前に立ちはだかった。

「帰っていいなんて一言も言ってないけど」



 次の瞬間。
  


 ドン!



 百合は思い切り突き飛ばされて床に尻餅をついた。    

「痛……」
 
「花里君に近付くなって言ったよね?どうして遊園地で一緒に居たの?」

 誘われたから……そう言おうとして口をつぐんだ。

 そんなことを言ってしまったら景太が責められてしまう。

「幼なじみだか何だか知らないけど、調子乗るなよ。ブス」

 そう言うと、持っていた鞄で百合の顔を殴った。

 ぶたれた頬が、赤くなる。

「あんたなんか、花里君と釣り合う訳ないんだから」

 そう言ってキャハハと笑うと、3人組は教室から出て行ってしまった。

「……分かってるよ、そんなこと」

 百合はフラフラと立ち上がった。

教室を出ようとして、視界がぼやけていることに気がつく。

「あ……あれ……?」

 涙が止まらない。

「やだ……景太達を待たせてるのに……」

 拭っても拭っても、涙が溢れて止まらなかった。

 ……昔から嫉妬に悩まされることは多かった。それでも景太の隣に居たのは、彼が必要としてくれるからだ。



 幼なじみとして。



 だから百合も一緒に居た。

 しかし、百合が景太に抱いてるのは幼なじみとしての気持ちでは無かった。



 ……景太が好きだ。



 でも、この気持ちを悟られたら今までのような関係では居られなくなる。

 周りだって、認めてはくれない。

「いっそ……いっそのこと、嫌われたらいいのかな……」

 他に自分の気持ちを絶つ方法が分からない。

 それに、身を削ってまで景太の傍に居る理由も……。

 百合は涙が止まるまで、教室でへたり込んでいた。