修学旅行が終わり、いよいよ年末が迫ってきた。

 ルナ達は年明けにある全国大会に向けて、今日も部活に勤しんでいた。

 部活が終わり、ルナは景太と百合と共に帰ろうとしたときだった。

 百合がふと鞄の中身を確認し、あ、と声を出した。
  
「……教科書忘れちゃった」

「百合が忘れ物?珍しいな」

「ごめん、ちょっと取ってくるね」

 百合はそう言って校舎に戻っていく。その場に景太とルナが取り残された。

「なぁ、ルナ。ハルとはどんな感じなんだ?」

 景太はニヤニヤしながらルナの方を見た。

 ルナは少し照れながら、それに答える。

「うん……たまに涼介君の病室で会ってるくらいかな。」

「デートとかしないのか?」

「で、デート……!?」

 いかにも恋人らしい単語に、ルナは顔を赤らめた。

 デートか。ルナは今までしたことも、しようと思ったこともなかった。

「……どこに行けばいいか分からないし、なかなか予定も合わないし……」

「そんなの言い訳だろ」

「うぐぅ……」

 図星を突かれて、ルナは唸った。そんなルナの様子を見て、景太はククッと笑う。

「折角付き合えたんだから、デートすればいいじゃん。楽しいだろうし、きっとハルも喜ぶぞ?」

「そうかな……」

「そうだろ」

 人間らしいデートコースなんて分からなかったが、ハルと一緒に過ごしたいのも、少しでも楽しい時間にしたいのも事実だった。

 それに、ハルと一緒に出かける……そう考えただけルナの胸が躍る。

「……うん。誘ってみようかな」

 ルナが顔を赤くしながら頷くのを見て、景太は彼の肩をポンポンと叩いた。

「おう。ルナ、頑張れよ」

 そんな話をしていた、その時だった。

「君が、ルナ君だね?」

 2人が声のした方をみると、グレーの長い髪をゆったりと結んだ、モデルのような青年がルナに向かって微笑んでいた。

「そうですけど……あなたは?」

「僕はソラ。ハルさんの婚約者です」



──婚約者?



 ルナは、思いも寄らない人物の登場に言葉を失った。

「待てよ、ルナはハルの彼氏だぞ?」

 景太はソラを睨みつけたが、ソラは全く意に介さなかった。

「僕は君よりずっと前から、ハルさんと婚約していました」

「そんな……」

 景太は反論できずに唇を噛む。

「……ハルの婚約者さんが、僕に何の用ですか」

 ルナは絞り出すように尋ねた。

「忠告に来たのですよ。ハルさんに、これ以上近づかないようにってね」

 すると、ソラはルナに顔を近づけ、耳元で囁く。

「他人の婚約者に手を出すなんて、君はとんでもない悪魔だ」

 ソラはルナから離れると、柔和な笑顔をルナ達に向けた。

「それでは、今日はこの辺で。くれぐれも、僕の婚約者に手を出さぬように」

 それだけ言ってソラはその場を去って行った。

 それを見送るやいなや、景太はすぐにルナに心配そうな目を向ける。

「ルナ、大丈夫か?」

 景太に尋ねられるも、ルナは弱々しく笑うことしかできなかった。

「うん……ちょっときつい、かな」

「……ルナ、よく知らない他人の言うことなんて気にするな。あいつの言ってることだって、本当かどうか分からないんだ」

 景太はそう励ますが、ルナの表情は晴れない。

「僕……ハルを好きでいていいのかな?」

「いいに決まってるだろ。というか、ハルもルナが好きだから付き合ったんだろ。」

「でも……」

 ルナの中に様々な思いが巡った。

 ハルは婚約者がいるのに、自分に好きだと言ったのだろうか。

 どうして?何のために?

「……ごめん、景太。先に帰るね」

「おい、ルナ!」

 ルナは景太を置いて逃げるようにその場を後にした。