* * *

 ルナはハルと一緒に遊園地中を遊び回った。

「絶叫マシンはこれで制覇したね!」

「あはは……そうだね」

 ルナは疲れていた。……頑張った。昼食直後の超速ジェットコースターが1番辛かった。

 日もだいぶ傾いてきた。時計を見ると、集合時間までもう少しだった。アトラクションも、乗れてあと1つだろう。

「ルナ、最後にあれ乗らない?」

 ハルが指さしたのは観覧車だった。

「うん、いいよ」

 ルナ達は観覧車乗り場に向かった。

 時間ギリギリだったからか、乗り場に生徒の姿は殆ど無かった。

「次の方、どうぞ!」

 スタッフに従って、ルナとハルは赤い観覧車に乗り込んだ。

 観覧車が、ゆっくりと登っていく。

 地面がどんどん遠くなる。

 空が、少しずつ近くなっていく。

「今日はありがとう、ルナ」

 不意に、ハルがルナに微笑んだ。

「え?」

「絶叫アトラクション、頑張って一緒に乗ってくれたよね」

 無理をしていたのがバレていたのか。ルナは思わず苦笑いした。

「ルナは本当に優しいね」

 そう言って綺麗に微笑むハルに、ルナは見とれてしまった。

 夕日がハルを照らして、彼女の髪がキラキラと光る。

──綺麗だ。他の誰よりも。

 そんな照れ臭い感情を誤魔化そうと、ルナは慌てて首を横に振る。

「そんなことないよ。僕はただ、ハルの笑顔が見たかっただけで……」

 そこまで言って、ルナはハッと口をつぐんだ。

(今、僕かなり恥ずかしいこと言った……?)

 恐る恐るハルの顔を見ると、ハルは目を丸くしていた。夕日のせいか、顔が赤く見える。

「は、ハル……?」

「……あのね、ルナ。君に聞いて欲しいことがあるんだ」

 ハルはルナの顔を真っ直ぐに見つめた、真剣な顔で告げる。

「ボク、君のことが好きなんだ」

「え……」

「ルナといると、自然に笑顔になれる。ボクに笑顔をくれたのは君なんだ」

 ハルはそう言うと、空色の瞳を細めて優しく微笑む。

 突然の出来事に、ルナの頭は真っ白になっていた。 

「ルナ。君は、ボクのこと好き?」

 そう問われて、ルナの中に様々な思いが巡った。

 ハルのことは好きだ。大好きだ。でも、自分は悪魔だ。ハルのことを、一生幸せにはできない。いつか見た夢のように、最後は別れる運命だった。

 しかし……目の前のハルは、真剣な眼差しで自分を見つめている。

 ……今だけ。自分が魔界に帰るまでの、本の短い間だけでも、ハルと一緒に居たい。

「うん、僕もハルが好きだよ」

 迷った末に、ルナの口から正直な言葉が出た。

「僕と付き合って下さい」

 ルナがそう言うと、ハルは嬉しそうに笑って頷いた。

「はい……!」

 その笑顔を見て、ルナの胸が満たされていく。

「あ!ルナ、見て」

 ハルに促されて、窓の外を見た。

 世界が、夕焼け色に染められていく。今まで見てきた夕焼けの中で1番綺麗だった。

「綺麗だね」

「……うん」

 微笑むハルに、ルナはしっかりと頷いた。