* * *

 一方、景太と百合は未だに花里ファンに捕まっていた。

「花里君、一緒に回ろうよ!」

「え、花里君、うちらと回ろ!」

 百合はファン達の圧力に、ただ黙ることしかできなかった。

 景太の周りには、こんなにもたくさんの人がいる。それこそ、幼なじみというだけで一緒にいることが、後ろめたくなるくらいに。

(この子達と回った方が、景太にとってもいいのかも……)

 この子達と回りなよ。百合の口からその言葉が出る寸前だった。

「ごめん、俺、今日は一緒に回る人がいるから」

 景太の声を聞き、ファンの視線が一斉に百合に向いた。

「誰この子……」

「彼女?」

 ざわめき出す人だかりの中で、百合は居たたまれなくなって俯いた。

(やっぱり、私じゃ景太と釣り合わないんだ)


 その時。


 景太が百合の手を引いた。

「百合、行こう」

「あ……」

 百合は景太に連れられ、人だかりから逃げるように抜け出した。

 しばらく走って、人気の少ないベンチに辿り着く。

 目の前にはソフトクリーム屋があるが、学生達はみんなアトラクションに乗っているのか、人はまばらだった。

「なんとか抜け出せたな……」

 景太はベンチに腰掛けると、溜息をついた。

 百合も、景太から1人分離れた場所に座る。

「気がついたらルナもいないし、なかなか離して貰えないし、どうしようかと思った」

「……あの子達と回らなくてよかったの?」

 百合は、景太とは目を合わせないまま尋ねる。

「え、なんで……」

「だって、あの子達みんな景太のこと好きなんだよ?」

「でも、俺が誘ったのは百合だぞ?」

 何てこと無いように言う景太だったが、百合のモヤモヤは晴れなかった。

「……どうして私を誘ってくれたの?」

 百合が尋ねると、景太はふと思い出したかのように口を開いた。

「聞きたいことがあったんだ」

「聞きたいこと?」

「昨日聞いただろ。百合に好きな人がいるのかって。結局分からずじまいだったから……」

「別に気にしないんじゃなかったの?」

「うーん……」  

 煮え切らない幼なじみを見て、百合は景太の意図が分からず溜息をついた。

 好きな人……いっそのこと正直に言ってしまおうか。でも、景太に悟られたくはなかった。

 そうなったら、きっと景太は気を遣うから。

「……別に居ないよ」

 強がりな言葉が、百合の口から出た。

「そっか」

 景太はそう短く返事をする。そんな様子を見て、百合の心のモヤモヤは増した。

「そっかって……それだけ?」

「うん」

「なんなのよ、もう」

 百合は平然としている景太を見て再度溜息をついた。

「俺……ソフトクリーム買ってくる」

 景太はそう言って立ち上がり、店に向かった。

(もう、何から何まで突然なんだから)

 だが、百合はそんな幼なじみを嫌いになれなかった。

 しばらくして、景太が両手にソフトクリームを持って帰ってきた。片方はバニラ、もう片方はチョコレートだ。

「百合、チョコ好きだったよな」

「あ……ありがとう」

 百合はチョコソフトを受け取った。

 何だかんだ言って、景太は百合のことを気にかけてくれるのだ。

 そんな優しさが、百合はずっと好きだった。

(私、何したいんだろ……)

 百合はチョコソフトを一口食べた。

 甘くて、少し苦かった。