* * *

 翌朝、ルナと景太は渡辺と鳴海と共に自主見学で京都を歩き回った。

「鳥居すごかったな!」

「日本って感じしたよな~」

 談笑してる渡辺と鳴海の横で、景太が時計を確認していた。

「まだ時間あるな。どっか行くか?」

「あ、なら俺いいところ知ってる!」

 鳴海が勢いよく手を挙げた。

「縁結びで有名な神社があるんだよ。黒崎のためにも、そこに行こうぜ」

「え、いいよそんな……」

 ルナは慌てて首を横に振った。自分は悪魔で、ハルは人間だ。縁結びの神社にあやかっても、結ばれないのは分かっていた。

「遠慮すんなって!花里、いいよな?」

「おう。じゃ、そこに行くか」

「待ってろよ。今地図を確認して……あっちだ!」

 ルナ達は道案内をする鳴海の後をついて行った。

 神社につくと、女性の参拝客でいっぱいだった。

「男4人だと目立つな」

 景太はそう言って笑った。

「あ、俺おみくじ引きたい!」

「俺も!」

 渡辺達はそう言うと、先に行ってしまった。

「俺達も行くか」

 ルナは頷いて、景太と共に店に向かった。

 すると、おみくじの置いてある店の前に着物で着飾った百合と菫の姿を見つけた。

「あ、百合と藤堂だ」

「あら、花里君とルナ君ですわ」

 2人の姿を見るなり、菫は嬉しそうに微笑む。

「藤堂さん達もこの神社に?」

「ええ。女子旅なら外せませんわ。ね、雨宮さん」

「うん。せっかくだからね」

 そう言って頷く百合を景太はぼんやりと見ていた。

「……景太、どうかした?」

 百合に尋ねられ、景太はハッとした。

「いや、何でもない」

 慌てて目線をずらす景太を見て、菫は口元を押さえてニヤリと笑う。

「ひょっとして、見とれてたんじゃありませんこと?」

「いや……」

 景太は頭をかいた。

「……ここ、縁結びで有名なんだろ。百合にも好きな人がいるのかなって、気になって」

「……もしいたら?」

 百合は景太の方を真っ直ぐ見ながら尋ねる。

「私に好きな人が居たら、景太は嫌?」

「……うーん。いや、別に……」

 その言葉とは裏腹に、景太の表情は曇っていた。

「そう……」

 百合は少し俯いたが、すぐに元に戻って言った。

「おみくじ引きに来たんだよね!早く引いてみたら?」

「あ、うん!」

 ルナはお金を払い、おみくじを引いた。

「……あ、小吉だ。」

 おみくじを開き、中身を読み進める。

──探し物、目の前にあり。

(目の前か……)

 自分の探してる天使は、案外近くに居るのかもしれない。

 更に読み進めて、ルナは恋愛の欄に目をとめた。

──恋愛、意志を貫けば叶う。

(意志を貫けば……)

 自分は悪魔だ。意志を貫いたところで、ハルと結ばれることは叶わない。

 ルナはその事実を確認して落ち込んだ。

「意志を貫けば叶うか。良かったじゃん」

「うわっ!」

 気がつくと、景太がルナのおみくじを盗み見ていた。

「いきなり覗かないでよ……」

「あ、悪い。俺のも見ていいから」

 景太はそう言うと、ルナに見えるようにおみくじを開き始めた。

「お、大吉じゃん」

 さすが景太。おみくじの運も強いようだった。

「恋愛……隣を見よ?」

 景太はルナの方を見て目を丸くした。

「ルナ……お前だったのか」

「違うと思うよ!?」

 ルナは首を一生懸命に横に振り、全力で否定した。

「あんたはもっと周りを見なさい」

 百合も呆れた顔で溜息をつく。

「おーい花里、黒崎!」

「お参りしてから帰ろうぜ」

 渡辺と鳴海が2人の方に歩み寄ってきた。

「あ、うん!……藤堂さん、雨宮さん、またね」

「またな。2人とも」

 ルナと景太は渡辺達の元に向かい、菫と百合が取り残された。

「……言わなくてよかったんですの?」

 菫は百合に向かって尋ねた。

「何が?」

「何って……花里君ですわ。好きな人がいるのか聞かれたときに、言ってしまえばよかったのに」

 百合は、菫の言葉の意味に気付かないフリをして苦笑いする。

「言うって、だから一体何を……」

「花里君が好きだってことですわ」

 菫の率直な言葉を聞いて、百合は思わず顔を赤らめる。

「……景太にその気が無いって分かってるし、私じゃ釣り合わないよ。きっと迷惑かけちゃう」  

 百合の脳裏に、景太がファンの女の子達に囲まれている様子が浮かんだ。もし自分なんかが景太と付き合ったら嫉妬の嵐だろうと百合は思った。

「そうかしら?わたくしはお似合いだと思うのですが」

 菫はそう言って、頬に手を当てながら笑う。

「藤堂さん、雨宮さん、そろそろ宿に戻ろ!」

 同じ班の女子生徒が、2人に声をかけた。

「今行きますわ!」

「分かった」

 百合は菫と共に班の仲間の元に向かった。