* * *

 京都府内のホテルに着き、入浴を終えて、ルナ達は部屋でくつろいでいた。

「温泉、気持ちよかったな」

「そうだね」

 布団の上でくつろぐ景太に、ルナは頷いた。

「あ~、いい湯だった!」

「まじ良い旅館だよな、ここ!」

 同室の渡辺と鳴海も帰ってきた。

「あ、黒崎と花里、もうあがってたんだな」

「じゃあ、早速始めるか」

 渡辺と鳴海はにやりと笑って布団の上に寝転んだ。

「恋バナターイム!」

「こ、恋バナ?」

 ルナが聞き返すと、渡辺がルナを見てニヤニヤと笑う。

「なぁ、ハルって誰だよ!」

 昼間の話題がまだ生きていたとは。ルナは顔を赤らめて俯いた。

「は、ハルは……」

「ハルは?」

「ハルは……僕の好きな人だよ」

「うぉー!やっぱそうなのか!」

「何組?それともどこ高?」

「南野女子の2年生……」

 ルナが答えると、2人は南野女子かー!と頭を抱える。

「黒崎、ハードル高い子好きになっちまったな」

 そう言ってクスクスと笑う鳴海に、ルナは苦笑いする。

 ハードルか。確かに高い。種族の差という、決して超えられないハードルがルナとハルの間にはあった。

「どんな子?どこが好きなんだ?」

 渡辺がルナの方にぐいっと顔を近づける。

「えっと……」

 ルナはハルのことを思い返した。透き通るような白い肌に、色素の薄い髪、空色の瞳……そして、ニッと笑ったときの表情。

 よく笑う彼女が、ルナは好きだった。

 たとえ結ばれなかったとしても。

「笑顔、かな……」

 悩んだ末に、ルナは呟くように言った。

「笑顔かー!ひゅー!ピュアだね!」

「若いねー!もしかして初恋?」

 鳴海の言葉に、ルナは頷く。

「黒崎って可愛いとこあるんだな!」

 やいのやいのと盛り上がる渡辺達を見て、ルナは枕に顔をうずめた。

「おい、あんまり揶揄ってやるなよ」

 見かねた景太がフォローを入れると、渡辺はすかさず言った。

「そう言うお前だって、雨宮とはどうなんだよ?」

「な!いつも一緒に居るよな?」

 興味津々な2人を見て、景太はきょとんと首を傾げた。

「百合は幼なじみだよ」

「じゃあ付き合ってないのか?」

「おう」

 景太の答えに、鳴海と渡辺は残念そうに溜息をつく。

「何だよー!つまんないな!」

 すると、景太はルナの方を見て尋ねる。

「俺達、そう見える?」

「うん……かなり」

 ルナは苦笑いして言った。

(雨宮さんに避けられてへこんだり、いつも一緒にいたがってるから、てっきりそうなんだと思ってたけど……)

「ぶっちゃけ雨宮のことどう思ってるんだ?」

 鳴海に問われて、景太はうーん、と考え込んで、やがて言った。

「一緒にいたい。これからも、今まで通りに」

 そう答える景太を見て、渡辺と鳴海は苦笑いした。

「……無自覚かよ」

「そんなんだったら、雨宮のこと、俺が盗っちゃうぞ」  

「駄目だ。百合は俺の幼なじみだからな」

 景太がさも当然のように言うと、2人は呆れて笑った。

「これだから花里は」

「自覚しろよ、ばーか」

 景太は相変わらずピンときていない様子だった。

「じゃあ次渡辺の番な」

「俺かよ!鳴海が先に言えよ!」

 この日の夜は遅くまで、2人の恋の話を聞くことになった。