* * *

 遂に文化祭当日がやって来た。

 ルナ達2年1組は、舞台裏で円陣を組んでいた。

「みんな、今日は成功させるよ!」

「おー!」

 委員長のかけ声に合わせて、みんなが声を出す。

『続きましては、2年1組による白雪姫です』

 司会進行のアナウンスの後、ジーと音を立てて幕が上がる。

 ルナの出番はまだ先だ。舞台裏からハルの姿を探したが、見つからなかった。

(ハル、見てるのかな……?)

 ルナは少しだけソワソワしだした。その傍らで、景太が深呼吸する。  

「……見てろよ、俺の白雪姫」

 景太が意気込みながら舞台へと出て行く。想像よりも高身長で筋肉のある白雪姫に、会場が笑いに包まれた。 

「花里君、調子よさそうですわ」

「うん、そうだね……」

 しばらくして、毒りんごを食べさせられた景太が眠りに落ちてしまった。こびと役の生徒達が悲しむ演技する。……そろそろルナの出番だ。

「ルナ君、頑張って!」

 ルナは菫の声に頷くと、舞台上に出て行った。

「何て美しい姫だろう」

 ルナは観客席を見ながら演技した。
  
 すると、観客席の端の方に、涼介とハルの姿を見つけてしまった。その途端に恥ずかしさでいっぱいになる。   
  
(今見つけるんじゃなかった……)

 ルナは緊張しながら、景太姫の唇にキスをするふりをする。  

 すると景太が目を覚まし、こびと達が嬉しそうに声を上げた。

 観客席もからも、喜んでいるような声が聞こえる。

「白雪姫は王子様と結ばれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」

 ナレーションが入り、体育館は観客達の拍手に包まれた。みんなが、ルナ達の劇を楽しんでくれた。きっと、ハルもそうだ。

 しかし、ルナは恥ずかしくてハルの方を見ることができなかった。

 幕が完全に下りると、ルナは力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

「終わった~……」

「ナイス王子だったぞ、ルナ」

 白雪姫姿の景太が、座り込むルナに笑顔で手を差し伸べてくれた。   

「ありがとう……景太もね」

 ルナは景太の手を借り、立ち上がって舞台裏にはけた。   

「おつかれー!」

「みんな良かった……ほんとに最高……!」

「委員長泣くなよ~」  
 
 舞台裏では、クラスメイトがわいわいと談笑していた。

 菫はルナを見るなり、その輪から抜け出して駆け寄る。

「ルナ君、王子様おつかれさまでした!格好よかったですわ!」

「ありがとう藤堂さん」

 ルナが菫に笑いかける横で、景太がそういえば、と口を開く。

「俺、さっき舞台上からハルを見つけたな。小学生ぐらいの男の子と一緒だった」

 景太はルナの肩をぽんと叩いて微笑む。

「早く着替えて会いに行こうぜ」

 ルナは少し顔を赤くして頷き、景太と共に着替え場所へ向かった。