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『こうしてシンデレラは王子と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』

 体育館のステージで、ハルはシンデレラを演じきった。

(ルナ、見ててくれたかな)

 ステージ上からは、たくさんの観客が見える。その中からルナを見つけることはできなかった。

 ステージの幕が下りる。舞台袖に向かうと、クラスメイト達が出迎えてくれた。

「ハルちゃん、おつかれさま!」

「良かったよ~」

 明るい笑顔を見せるクラスメイト達に、ハルは優しく微笑む。

「ありがとう」

 クラスメイトや担任と話をした後、ハルは衣装を脱いで制服に着替えて、ステージ裏からフロアに出た。

「あ!ハル!」

 美亜が真っ先にハルの元へ駆け寄ってきた。

「おつかれさま!シンデレラ、良かったよ~!」

「ほんとに?」

「うん!なんだか今日のハルはいつもより輝いてるって感じ!」

「そうかな……?」

 ハルは首を傾げた。

「そうそう!黒崎君のお陰かな?」

 美亜はそう言って悪戯っぽく笑った。

「ルナのお陰?」

「うん!だって、黒崎君と居たとき、にこにこしてて楽しそうだったもん」

「そうだっけ?」

「そうだよ!」

 とぼけつつも、ハルも気がついていた。ルナといるときは自然と笑顔になれていることに。

「ハルはほんとに、黒崎君が好きだね~!」

 美亜の言葉にハルはハッとした。

(ボクはルナのことが好き……?)

 心の中でそう呟くと、その言葉は胸の中にストンと落ちた。

──お人好しで、優しくて、頑張り屋なルナのことが、好き。どうして今まで気がつかなかったんだろう。……でも、ボクは天使だ。天使は人間と結ばれちゃいけないし、ボクには婚約者がいる……。

 黙り込んでしまったハルを見て、美亜は首を傾げる。

「ハル?どうかした?」

「……ああ、何でもないよ」

「ならいいけど!……劇も終わったし、黒崎君に会ってきたら?」

「ルナに?」

「そ!感想ぐらい聞いてきなさいよ!」

 美亜は明るく笑って、ハルの背後に回り込むとその背中を押した。

「……うん。そうするよ」

 ハルは頷くと、体育館を後にした。

(実らない恋だって分かってる。でも、今だけは……)

 ハルは、心の中でそう呟いた。