「ハル、保健室は?」
「階段を降りて右……」
「分かった」
ハルに言われた通りに、ルナは早足で階段を降りていく。
人を1人抱えた状態で軽々と降りていくルナの様子を、道行く女子生徒達が頬を染めながら見つめる。
ハルはその視線が気恥ずかしくて、咄嗟に口を開いた。
「る、ルナ。ボク重くない?」
ルナの様子を見ていれば、そんなこと無いのは一瞬で分かる。しかし、ハルは恥ずかしさを誤魔化したくて何か喋らずにはいられなかった。
「全然。平気だよ。」
ルナは微笑みながら優しく答える。
──王子みたいだ。
ハルはそう思わずにはいられなかった。
そうしているうちに、2人は保健室に到着した。
「ここだね」
ルナが保健室のドアを開けると、中には誰も居なかった。
「先生、見回りなのかも……」
「そっか……じゃあ、僕がやるよ」
ルナはハルを椅子に座らせると、棚にあった救急箱から湿布と包帯を取り出した。そして、ハルの履いている白いソックスを脱がせ、足首の様子を確認する。……やはり、少し腫れているようだ。
「痛いの、ここ?」
「……うん」
ルナはハルの足首の腫れている部分に湿布を貼った。
湿布のひやりとした感覚に驚いて、ハルは目を瞑る。
ルナは包帯を手に取って、ハルに声を掛けた。
「包帯巻くけど、きつかったら言ってね」
「うん」
ルナは慣れた手つきでハルの足首に包帯を巻いていく。保健室には時計の秒針の音だけが聞こえていた。
しばらく続いた沈黙が、ルナの声で破られる。
「よし。できた」
ルナはそう呟くとハルに微笑んだ。
その笑顔を見て、ハルの胸がトクンと音を立てた。
(あれ、ボク……)
「包帯、きつくない?」
「あっ……ありがとう!……慣れてるんだね。包帯巻くの、上手くてビックリした」
ハルにそう言われ、ルナは照れ笑いを浮かべた。
「部活でよくテーピングを巻くからね」
「そっか……」
ハルは、笑顔を見せるルナから目を逸らし、俯いたまま口を開いた。
「助けてくれてありがとう。ボク、あんなこと言ったのに……」
「あっ、そのことなら、もう気にしないで!僕も格好悪かったし……」
ルナは苦笑いしながら続ける。
「格好よくなりたいけど、まだまだだなって痛感したよ」
ルナの言葉を聞いたハルは、首を横に振る。
「……そんなことないよ」
ハルはそう言うと、ルナの方を見て優しく微笑んだ。
「格好よかったよ、ルナ」
その言葉を聞いた途端、ルナの顔が真っ赤になった。
「そ、そうかな……?」
「うん。格好よかった。……君は本当に優しいね」
ハルがそう笑ったその時、校内放送が流れてきた。
『まもなく2年4組によるシンデレラの発表が始まります。対象の生徒は準備して下さい』
「あっ、ボクも行かなきゃ」
ハルは怪我をした足を庇いながら立ち上がった。
「足、大丈夫……?」
「うん。ルナが手当てしてくれたから」
そう言うと、ハルはニッと笑った。
「ボク達のシンデレラ、応援しててね」
「うん、応援してる!」
ルナがガッツポーズを見せ、ハルもそれを真似して微笑んだ後、保健室を出て行った。
ルナは彼女の歩いて行った先をぼんやりと眺める。
ハルの笑顔が、脳裏に焼き付いていた。
『ルナ兄の使命は、大天使の娘を殺すことなんだから』
ふと、ヨルの言葉が蘇る。
(……僕は、悪魔だ)
それは変えられない事実だった。悪魔と人間は結ばれない。それはルナも分かっていた。しかし、ハルといると自分が悪魔だということをつい忘れてしまう。
「許されない恋でも、今だけは……」
ルナは保健室に佇んで、1人呟いた。
「階段を降りて右……」
「分かった」
ハルに言われた通りに、ルナは早足で階段を降りていく。
人を1人抱えた状態で軽々と降りていくルナの様子を、道行く女子生徒達が頬を染めながら見つめる。
ハルはその視線が気恥ずかしくて、咄嗟に口を開いた。
「る、ルナ。ボク重くない?」
ルナの様子を見ていれば、そんなこと無いのは一瞬で分かる。しかし、ハルは恥ずかしさを誤魔化したくて何か喋らずにはいられなかった。
「全然。平気だよ。」
ルナは微笑みながら優しく答える。
──王子みたいだ。
ハルはそう思わずにはいられなかった。
そうしているうちに、2人は保健室に到着した。
「ここだね」
ルナが保健室のドアを開けると、中には誰も居なかった。
「先生、見回りなのかも……」
「そっか……じゃあ、僕がやるよ」
ルナはハルを椅子に座らせると、棚にあった救急箱から湿布と包帯を取り出した。そして、ハルの履いている白いソックスを脱がせ、足首の様子を確認する。……やはり、少し腫れているようだ。
「痛いの、ここ?」
「……うん」
ルナはハルの足首の腫れている部分に湿布を貼った。
湿布のひやりとした感覚に驚いて、ハルは目を瞑る。
ルナは包帯を手に取って、ハルに声を掛けた。
「包帯巻くけど、きつかったら言ってね」
「うん」
ルナは慣れた手つきでハルの足首に包帯を巻いていく。保健室には時計の秒針の音だけが聞こえていた。
しばらく続いた沈黙が、ルナの声で破られる。
「よし。できた」
ルナはそう呟くとハルに微笑んだ。
その笑顔を見て、ハルの胸がトクンと音を立てた。
(あれ、ボク……)
「包帯、きつくない?」
「あっ……ありがとう!……慣れてるんだね。包帯巻くの、上手くてビックリした」
ハルにそう言われ、ルナは照れ笑いを浮かべた。
「部活でよくテーピングを巻くからね」
「そっか……」
ハルは、笑顔を見せるルナから目を逸らし、俯いたまま口を開いた。
「助けてくれてありがとう。ボク、あんなこと言ったのに……」
「あっ、そのことなら、もう気にしないで!僕も格好悪かったし……」
ルナは苦笑いしながら続ける。
「格好よくなりたいけど、まだまだだなって痛感したよ」
ルナの言葉を聞いたハルは、首を横に振る。
「……そんなことないよ」
ハルはそう言うと、ルナの方を見て優しく微笑んだ。
「格好よかったよ、ルナ」
その言葉を聞いた途端、ルナの顔が真っ赤になった。
「そ、そうかな……?」
「うん。格好よかった。……君は本当に優しいね」
ハルがそう笑ったその時、校内放送が流れてきた。
『まもなく2年4組によるシンデレラの発表が始まります。対象の生徒は準備して下さい』
「あっ、ボクも行かなきゃ」
ハルは怪我をした足を庇いながら立ち上がった。
「足、大丈夫……?」
「うん。ルナが手当てしてくれたから」
そう言うと、ハルはニッと笑った。
「ボク達のシンデレラ、応援しててね」
「うん、応援してる!」
ルナがガッツポーズを見せ、ハルもそれを真似して微笑んだ後、保健室を出て行った。
ルナは彼女の歩いて行った先をぼんやりと眺める。
ハルの笑顔が、脳裏に焼き付いていた。
『ルナ兄の使命は、大天使の娘を殺すことなんだから』
ふと、ヨルの言葉が蘇る。
(……僕は、悪魔だ)
それは変えられない事実だった。悪魔と人間は結ばれない。それはルナも分かっていた。しかし、ハルといると自分が悪魔だということをつい忘れてしまう。
「許されない恋でも、今だけは……」
ルナは保健室に佇んで、1人呟いた。