* * *

 その日は景太とルナ、2人だけで帰った。

 劇の練習をしているうちに、時刻は夜の19時を回っていた。外もすっかり暗くなっている。

 街灯に照らされた道を歩きながら、ルナは隣にいる景太に声を掛けた。

「ねぇ、景太」

「何だ?」

「今更だけど、どうして僕を王子に選んだの?」

 ルナが尋ねると、景太は苦笑いしながら頬を掻いた。

「……お前が聞いたら怒りそうな理由だけど、いいか?」

 どんな理由だ。ルナも思わず苦笑いした。

「別に良いよ」

 ルナにそう言われ、景太は真剣な顔で答える。

「場の空気を変えようとしたんだ。百合が困ってたから」

 景太の言葉を聞いて、ルナは納得した。

 確かにあの日、百合が名指しされたときの空気は悪かった。まるで、集団で百合を陥れようとしているかのような……そんな雰囲気だった。景太がそこまで気付いていたかは分からないが。

「俺が姫をやって、お前が王子をやる。大分インパクトあるだろ?絶対に空気が良くなると思ったんだ」

「あー、確かにそうかも」

 ルナは笑いながら頷いた。

「……百合が何も言ってくれないなら、言ってくれるまで待つ。俺は百合の力になりたい。だって幼なじみだからな」

 景太は真顔でそう言うと、ルナの方を見つめて言った。

「巻き込んで悪かった」

 そんな景太に、ルナは穏やかな笑顔を見せる。

「いいよ、謝らなくても。それより、雨宮さんと仲直りできると良いね」

「……ああ。そうだな」



 ティロン!



 不意に、2人のスマホが鳴った。

「誰からだろう……?」

 ルナがスマホを確認すると、ハルからのメッセージだった。

『明日から、ボク達の学校で文化祭があるんだけど、みんなも来ない?』

「行きたい!……あ」

 嬉しさのあまり、心の声が外に漏れてしまった。ルナは慌てて口を押さえたが、もう後の祭りだった。

 景太がニヤニヤしながらこちらを覗き込んでいたのだ。

「行きたいよな。ハルに会えるもんな」

 ルナは顔を真っ赤にして俯く。

 その様子を見て、景太はルナの背中をぽんと叩いた。

「いいじゃん、行こうぜ。うちの文化祭は来週だし」

「うん……そうだね!」

 ルナは笑顔で頷く。
 
 ハルにまた会える。それだけで舞い上がってしまいそうだった。  

(また会えるの、楽しみだな)