「あ、分かった。委員長、ちょっと行ってくるね」

 ルナは委員長に声を掛け、菫と共に隣の空き教室へ入った。

「藤堂さん、衣装どんな感じ?」

「これですの。着てみて下さる?着替え終わったら教えて下さいね」

「分かった」

 ルナは菫が後ろを向いたのを確認し、衣装に着替え始めた。

 白を基調にした王子様の服。まるで絵本の中から飛び出してきたようなその衣装は、手作りとは思えないほどよくできている。

「……よし、着替え終わったよ」

 ルナの声を聞いて、菫は振り返った。

「あら!とてもお似合いですわ!」

 菫は王子様姿のルナを見るなり目を輝かせる。

「どこかきつい所はありますか?」

「ううん。大丈夫そう」

「よかった。頑張ったかいがありましたわ」

 そう言って笑顔を見せる菫の指をよく見ると、あちこちに絆創膏が貼られていた。

「藤堂さん、すごく頑張ってくれたんだね」

 ルナが微笑むと、菫は大きな胸を得意気に張った。

「当然ですわ。だって王子様のルナ君を見るためですもの!」

「藤堂さん……」

 菫のその言葉を聞き、ルナの脳裏に花火大会でのことが過る。

(僕は藤堂さんを泣かせたんだ……それなのに藤堂さんは……)

 ルナは申し訳なさのあまり俯いてしまった。

 すると、ルナの気持ちを察した菫は優しく微笑んだ。

「わたくしにとって、ルナ君は大切なお友達ですわ。この関係も、わたくしが望んだことです。だから、ルナ君が落ち込む必要はありませんわ」

 菫はそう言うと、ルナの背中を押した。

「……さて、次は花里君の番ですわ。大人しく捕まってくれているといいのですが……呼んできて下さる?」

「……うん、分かった」

 ルナは空き教室を出る前に、菫に振り返って言った。

「藤堂さん……ありがとう」

 それだけ言って、ルナは教室を出た。

「……それはこっちの台詞ですわ」

 菫は微笑んで呟いた。

「わたくしと仲良くして下さって、本当にありがとう。ルナ君」