* * *

 文化祭本番に向けて、ルナ達は劇の練習に本腰を入れ始めた。

「あぁ、なんて美しい姫だろう」

 ルナは横たわる景太の傍により添った。

(ここで優しくキスをするフリ……!)

 ルナは景太に顔を近づけた。

「……ルナ、お前睫毛長いな」

「うわっ!?」

 ルナはいつの間にか目を開けていた景太に驚いて飛び上がった。

 それを見た学級の副委員長が景太を叱る。

「こら花里~!まだお前眠ってろ~」

「あ、わり」

 景太は再び目を閉じた。

「王子、早く助けてくれ」

「あ、うん……」

 ルナはキスをするフリをした。フリなのにどうも照れてしまって仕方が無い。

(僕が好きなのはハル……僕が好きなのはハル……)

──ハルに会いたい。ハルとキスをしたらどんな感じだろう……。

(……って!我ながら気持ち悪すぎる!!)

「……ルナ、まだか?」

 ルナはキスをするフリの状態で固まっていたことに気がついた。 

 それを見た副委員長が、今度はルナを叱る。

「こら黒崎~!キスが長いぞ~」

「し、してないよ!」

「ああ。キスしてないぞ。俺が保障する」

 景太がドヤ顔でルナの肩に手を置いた。

「2人とも、まだまだ練習が必要だね……」

 委員長が苦笑いした。ルナも思わず溜息をつく。

 キーンコーンカーンコーン

 ここで放課後を報せるチャイムが鳴った。

「よし!部活が俺を呼んでる」

 景太は鞄を持ち、廊下へ向かって駆け出した。

「待って花里君!君は主役だから放課後も練習よ!」

 委員長は声を上げたが、景太に聞き入れる様子はなかった。

「誰にも俺は止められない!!」

「みんな!花里君を押さえて!」

 その時教室にいた男子が一斉に景太を追いかけた。

「待て花里!」

「俺だって部活行きたいんだぞ!」

「お前だけ行かせてたまるか!」

 ルナはその様子を苦笑いしながら見ていた。  

 すると教室のドアが開き、外からやって来た菫がルナの肩をぽんと叩いた。

「ルナ君、ちょっと来てくださる?衣装合わせですわ」