* * *

 百合が気がつくと、そこは保健室のベッドの上だった。室内はクーラーが効いており涼しく、百合の額には冷えピタが張られている。

(私……どうしたんだっけ……?)

 すると、ベッドのそばに座っていた保健室の先生が心配そうに尋ねた。

「雨宮さん、具合はどう?」

「……まだ少し頭が痛いです」

「そう。無理しなくて良いからね」

 そう言って微笑む先生に百合は尋ねた。

「私、どうしてここに……?」

「熱中症よ。……さっき花里君がね、倉庫で倒れてた雨宮さんを運んできてくれたのよ」

「景太が……」

 百合は目を丸くした。意外だったのだ。部活をしていたはずの景太が、どうして自分を助けてくれたのか。

 すると保健室のドアが開く音がして、景太の声が聞こえた。

「先生、百合は……?」

「大丈夫よ。今目を覚ましたわ」

「景太……!」
 
 百合はベッドから起き上がり、景太に歩み寄った。

「百合、具合はどうだ?」

「……もう大丈夫。ありがとう」

「そっか……良かった」

 景太はそう言って微笑むと、百合に荷物を差し出した。

「荷物持ってきたんだ。ルナも待ってるし、一緒に帰ろう」

 普段通りの下校の誘いだった。いつもなら一緒に帰るところだが……百合は首を横に振った。

「……ごめん。まだ具合悪いから少し休んでから帰る。先に行ってて」

「そっか……分かった」

 景太は頷いて保健室を出て行った。

 その様子を見て、保健室の先生は不思議そうに尋ねる。

「一緒に帰らなくて良かったの?」

 百合はそれに頷いて、ベッドの上に戻った。

 一緒に帰る訳にはいかなかったのだ。

 倉庫で用具の確認をしていたとき、花火大会で会ったクラスメイトに言われたのだ。

『幼なじみだからって生意気なのよ!もう花里君に近づかないでくれる?』

 百合はその後突き飛ばされ、倉庫に閉じ込められてしまった。

 またあんな思いをする……そう思っただけで怖かった。

 それに、自分が一緒に居ることで景太に迷惑をかけてしまうかもしれない……。

(もう景太と一緒に居ない方が良いのかも……)

 百合はベッドの上で丸くなりながら、少し涙を流した。