* * *

 結局あの後、ルナ達が再び集まることはなかった。

 ルナは1人家に帰ると、扉の前にヨルが仁王立ちしていた。ヨルは意地の悪い笑顔をしながら、ルナに尋ねる。

「ルナ兄、お嬢さんのこと泣かしてたでしょ?」

 ルナは何も言えずに、ただ頷いた。

「お嬢さんはとってもルナ兄のことが好きなのに、ルナ兄には他に好きな人が居るんだって?」

「それは……」

「ルナ兄も立派な悪魔だね」

 それだけ言うと、ヨルはルナの手から部屋の鍵を抜き取り、ガチャリと音を立てて部屋の中に入っていった。

 ルナはそれを見ながら、扉の前で立ち尽くす。

(僕は、ハルのことが好きなのかな……)

 ハルに会いたいと思うのも、話がしたいと思うのも、笑顔に胸が躍るのも、ハルが好きだからなのだろうか。

(僕は、ハルが好き……)

 胸の中でそう唱えてみると、ストンと腑に落ちるような感じがした。

(僕は、ハルが好きなんだ……)

 ルナはそう自覚した途端に、顔が赤くなるのを感じた。

 ティロン!

 ルナのスマホが鳴った。

 菫からのメッセージが届いていた。

『さっきは逃げ出してごめんなさい。これからもお友達でいてくれる?』

(藤堂さん……)

 ルナはメッセージを打ち込んだ。

「うん。藤堂さんの気持ちには応えられないけど、君が良ければ」

 メッセージを送信すると、すぐに返事が返ってきた。

『ありがとう。ヨル君にも、ごめんなさいと伝えて』

「え……?」

 ヨルが一体どうしたというのだろう。少し不思議に思いながら、ルナは部屋に入ってヨルに尋ねた。

「ヨル、藤堂さんが謝ってたけど……何かあった?」

 するとヨルは一瞬ハッとしたが、すぐにもとの悪戯っ子の笑顔に戻った。

「内緒」

 こうして、ルナ達の夏休み最大のイベントは、終わりを迎えた。