* * *

 一方、景太と百合もルナ達を探していた。

「あいつらどこ行ったんだろうな」

「全然見当たらないわね……」

 景太は高い身長を生かして辺りを見渡したが、それらしい姿はない。

 花火大会も中盤に差し掛かり、人もどんどん増えてきた。油断すると、百合ともはぐれてしまいそうだ。

「あ、そうだ」

 景太は突然、百合と手を繋いだ。

「え、景太、いきなり何!?」

「こうでもしないとはぐれちゃうじゃん」

 平然とそう言う景太に対して、百合は顔を真っ赤にする。

「で、でも恥ずかしいし……!」

「昔はよく繋いでたじゃん。今更どうってことないだろ」

 景太は昔からそうだった。百合どうこうなろうという気は微塵もない癖に、無意識な行動で百合を振り回すのだ。

 その結果、意識するのも百合。嫉妬を買うのも百合だった。
 
(……私だけ意識して、馬鹿みたい)

 百合は思わず溜息をついた。

「あれ、花里君じゃない?」

「あ、ほんとだ!雨宮さんも一緒じゃん」

 クラスメイトの派手な女子グループが百合達のもとへ寄ってきた。

 ……嫌な予感がする。百合は咄嗟に彼女達から目を逸らした。

「こんなところで、奇遇だね~!」

「2人は何?デート?」

「っ……!」

 百合は慌てて景太の手を離した。

「友達と来てたけどはぐれちゃったの!景太とは、はぐれないように手を繋いでただけだよ」

「へぇ~そっかぁ」

 笑顔を崩さずに相槌を打つクラスメイトだったが、その言葉は棒読みだった。

 その声色の裏に敵意を感じながら、百合は俯いた。

 不意に、女子グループの1人が景太に甘ったるい笑顔を向ける。

「じゃあ花里君、うちらと一緒に回らない?」

 ……始まった。

 明らかな色目を使ってくるクラスメイト。どうやら彼女達は景太に気があるらしい。

 しかし、景太はそれに気付かない。

「悪いけど、俺と百合、ルナ達を探さなきゃ行けないから。行こう百合」

 景太はそう短く告げて、百合の手を引いた。

 百合が恐る恐る後ろを振り返ると、女子達は自分を鋭く睨んでいた。

(夏休み明け、怖いな……)

 1人落ち込む百合を見て、景太は心配そうにその顔を覗き込んだ。

「大丈夫か、百合?」

 百合は何とか頷いて見せた。

(誰のせいよ、バカ)

 脳天気で鈍感な幼なじみ。彼に何度も悩まされたが、彼のことを嫌いになったことは一度も無かった。

「あ、花火」

 景太が指し示した空を見上げると、大きくて鮮やかなオレンジ色の花火が空に咲いていた。もうすぐフィナーレだ。

「また来年も、一緒に見ような」

「……はいはい」

 百合は相変わらず呑気な幼なじみに呆れながら、夜空を見上げた。

 色とりどりの花火が、夜空を素敵に飾っていた。