* * *

 ずっと好きだった。

 一人ぼっちだった自分に、優しく話しかけてくれたルナのことが。

 誰よりも優しいルナのことが。

 入学式の日、窓側の端の席で1人で俯いていた自分の肩を叩き、「おはよう」と微笑んでくれたルナのことが。

 誰よりも、好きだった……。

 菫は泣きながら人混みの中を駆けた。

ドスン!

「きゃっ!」

 突然誰かにぶつかって、菫は尻餅をついた。

「ご、ごめんなさい。わたくし前を見てなくて」

 菫は涙を拭いながら、差し伸べられた手を取り立ち上がる。すると、目の前に居たのはヨルだった。

「大丈夫かい、お嬢さん?」

 ヨルは心配そうに尋ねた。その優しげな声に、菫は涙を止めることができなくなった。

「っ……、うう……」

「わ!泣かないで!オレで良ければ話を聞くよ。何があったの?」

「ぐす……ルナ君の事がずっと好きだったのに、わたくしの他に好きな人がいて……でもわたくし、分かっていたのに……」

 菫はぐちゃぐちゃになりながらヨルに思いを伝えた。  

「そっか……」

 ヨルは泣きじゃくる菫の手を握って微笑む。

「自分を泣かせるようなバカ兄なんてほっといてさ、オレにしなよ、お嬢さん」

 その言葉を聞いて、菫は咄嗟にヨルの手を振り払った。

「揶揄わないで!!」

 菫はヨルを睨み付けた後、そのまま祭りとは逆方向に走って行ってしまった。

 その後ろ姿を見て、ヨルは苦笑いする。

「オレの言葉って、そんなに薄っぺらいのかな……」

 花火が上がる。

 空に弾けた紫色の花火を見上げて、ヨルは呟いた。

「結構、本気なんだけどな」