ルナはアパートの鍵を開け、ヨルを中に入れた。

「ここがルナ兄の家か。狭いな~」

ヨルは部屋に入ると、ルナの座椅子に腰掛けた。

「でもこの部屋の物って、全部魔界から支給されたんだよね。そう考えると太っ腹かな」

ヨルの言う通り、ルナの生活に必要な物は全て魔界王が準備した物だった。どのように準備したのかは分からないが、ルナが現世に来た段階で、あらゆる生活必需品は揃っていた。

こちらもどのようにしているのか分からないが、定期的にお金も支援されている。そこまで手厚い支援をするなんて、よほど大天使の娘を殺してほしいのか。
 
「……ところで、ヨルは何しに人間界に来たんだよ」

ルナはずっと気になっていたことを尋ねた。

「何しにって……そんなの決まってるじゃん」

ヨルは意地悪そうな笑顔を浮かべて答える。

「監視だよ。根性無しのルナ兄が、きちんと大天使の娘を殺すようにね」

「う……」

痛いところを突かれて、ルナは顔をしかめる。

「大体、1年も人間界に居たのに何の進展もないなんて、職務怠慢もいいところだよ」

「だって見つからないし……殺すなんて物騒なことしたくないし……」

「はぁ……これだからルナ兄は……」

ヨルはやれやれとと首を横に振った。

「こんなことになったのだって、ルナ兄が悪魔の仕事をきちんとしなかったせいでしょ?」

「だって人を不幸にするなんて、僕にはとても……」

ごにょごにょと言い訳をするルナに、ヨルは再度溜息をついた。

「悪魔が人に不幸をもたらす理由、忘れちゃった?」

ルナは首を横に振って言った。

「悪魔が人に不幸をもたらす理由は、人を成長させるため……」

「分かってるじゃん」

「……でも、1年間現世で生活して思ったんだ。やっぱり僕、人間を不幸にしたくない……」

頑なな様子を見て、ヨルは苦笑いして言った。

「ルナ兄、悪魔なんて向いてないね」

するとヨルはルナのベッドに寝そべって言った。

「旅の疲れが貯まってるから、オレもう寝るね」

「ヨル……」

「……色んな物支給してもらってるんだから、悪魔としての自分の立場、考えなよ」

それだけ言うと、ヨルは寝息を立て始めた。

「悪魔としての自分の立場……」

ルナはその場に立ち尽くすしかなかった。